原水爆禁止運動の基本原則


 核保有国の原水爆所有数量が第二次世界大戦における総爆発量の数万倍といわれている今日、核戦争は一瞬のうちに全人類の生存と、その文明を破滅させるものとなっている。
 原水爆を禁止し、恐るべき核戦争を防止して世界の平和と人類の繁栄を確保することは、世界諸国民に課せられた使命であり、一人一人の生きる権利として世界諸国民の誰もが果たさなければならない歴史的課題である。
 しかるに、核実験はいぜんとして続けられ、核拡散の傾向は強まり、核戦争の危険もまた増大している。
 いまや、原水爆を禁止し、完全軍縮を達成するための原水爆禁止運動は、あらゆる平和運動のなかでもっとも重要性と緊急性をもつ運動となっている。
 世界最初の被爆国であり、世界に誇るべき非武装、戦争放棄の平和憲法をもつ日本国民は、広島、長崎、ビキニの痛切な体験を積極的に生かし、原水爆禁止運動の中核となってその推進をはかる尊い使命をになっている。
 原水爆禁止日本国民会議は、この運動のもつ崇高な意味を自覚し、かつ多年にわたってつみかさねられた運動の成果と基調をふまえ、ここに原水爆禁止運動の基本原則を確立し、宣言する。

  1. 広島、長崎、ビキニの被爆原体験を基礎として原水爆を憎み、戦争に反対し、平和を望む日本国民の心情は、この運動の基盤である。
    この心情は尊重し、積極的に生かすことが重要である。
    又この運動にとって、被爆者の救援活動は欠くことの出来ない主要な柱である。
    被爆者救援運動は、被爆者の権利としてその生命と生活をかちとる運動であり、更に被爆者を再び出させない運動として発展させる。
  2. この運動はいかなる国の核兵器の製造、貯蔵、実験、使用、拡散にも反対し、その完全禁止と全腐をめざすものであり、どんな小さなことでも原水爆の禁止に役立つ政策および行動を支持し、どんな小さな原水爆の脅威をおよぼす政策および行動に反対するものである。
  3. この運動は平和憲法の理念を基礎として原水爆の禁止と完全軍縮が社会体制の異なる国家間の平和共存のもとで可能であるという立場に立つ。
    従ってこの運動は特定のブロックに偏することなく、巾広く世界の平和の諸運動と連携をもつ。
  4. この運動は原水爆の脅威から人類を解放するという共通目的のもとに、これに賛同するあらゆる階層の団体や個人を結集する広汎な国民運動であり、誰もが参加出来る民主的運動である。
     この運動は、思想・信条・政党・政派を越えた運動である。したがって社会体制の変革を目的とする運動とは性格を異にする運動であり、特定政党に従属するものではない。この立場を堅持しつつ、人類の生命と幸福をふみにじろうとする原水爆政策と対決し、政治を原水爆禁止の方向に動かすための国民運動である。
  5. 広汎な国民運動としての、原水爆禁止運動に参加する団体はさまざまな性格をもっている。各団体は全体の合意によって統一行動をくみ、団結してこれを実行する責任を負うとともに、それぞれの団体の性格を生かして創意に満ちた独自行動を行なう。この統一行動と独自行動が相まって、はじめて運動全体が高まるものである。
     又、この運動は情勢の発展に応じて関連する諸課題をとりあげ、原水爆禁止の立場か らこれと積極的にとりくむことが必要である。この運動と他の運動との関連については、要求の一致点を求め、それが見出された場合は、原水爆禁止、完全軍縮促進の立場から緊密に連携し、共同行動をとる。この場合には、すべての参加団体の立場と意見を尊重し、全体の理解のもとに行動する。
(1965.2.1)  

※原水禁は1965年2月1日の結成に当り、過去の運動の苦しい経験にかんがみ、運動の正常化とゆるぎない基礎をつくるため、「原水禁運動の基本原則」を確立した。この基本原則は、62年3月につくられた「基本原則」ならびに、63年2月の「2・21声明」の精神を生かし、「広島・長崎大会」の基調をもとに、運動の諸教訓を生かしてつくられたものである。