「共同行動」と「排除の論理」――原水禁運動の大原則

 原水禁が組織活動を続ける上での大原則は、「絶対に『排除の論理』をとらない」ということでした。どのような思想、信条の持ち主であっても、どのような組織に属していても、「核に反対する」という立場が共通である限り、運動に加わろうとする人を排除することがあってはなりません。そのためにどんなに面倒なことになっても、互いの違いを認めあいながら、ねばり強い討論と共同行動の積み重ねのなかで克服していくしかないのです。それが国民運動というものであり、原水禁運動の大前提です。原水禁運動として排除することが許されるのは、独善的な価値観をふりかざして、「排除の論理」持ち込もうとする者だけです。
 原水禁がこの様な信念を持つに至ったのは、日本原水協から離れて原水禁国民会議を結成するに至るまでの苦い経験があるからです。その経過についてここでは詳しくは触れませんが、当時、原水協の主導権を握った日本共産党が、独善的な自らの主張を強引に押しつけようとしたために、原水協組織は混乱に混乱を重ねました。最初、「平和の敵アメリカ帝国主義の打倒、民族独立・安保反対を中心課題とせよ」とする原水協執行部に対して「政治的」と反発した保守層や民社党系が離脱し「核兵器禁止・平和建設国民会議(核禁会議)」を結成。さらに「平和を守るソ連社会主義の核兵器・核実験を支持」との方針を押しつけ、原水協の組織を引き回したため、これに反発し「いかなる国の核実験・核兵器にも反対」するべきと考えた人々が原水協の組織を離れました。この人々が、私たち原水禁を結成したのです。
 原水禁は故・森瀧市郎議長自身が原水協を排除された(64年6月日本原水協は浜井広島市長、森滝市郎日本被団協理事長【当時】らを除名)人間であり、原水禁草創期の主要なメンバーは共産党がふりかざした「排除の論理」の傷を身をもって知っていました。原水禁が「排除の論理」に反対するのは、この同じ過ちを決して繰り返すまいと考えるからです。
 その後も原水禁は、日本共産党を排除(≒原水協を排除)された多くの人々とも含めた幅広い共闘を行なってきました。古くは、日共の方針に反し部分的核実験禁止条約に賛成した志賀義雄氏らの「日本の声」派(現・平和と社会主義)や、共産党から分かれた毛沢東派系の日本労働党、「原水禁の路線に妥協した」として日本原水協の役員を解任された吉田嘉清氏などの「平和事務所」の人々などにも大会への参加を呼びかけ共闘してきました。この他にも共産党から「ニセ左翼」と呼ばれてきたような新左翼諸党派のことも共闘の原則が守られる限りは排除せず、同じく「反共分裂主義者」とされた市民団体にもご参加いただいてきました。
 原水協はこうした人々を下品に罵り続けただけでなく、77年から85年まで統一して開催された世界大会の準備の過程でも、誰それを排除しろ、どこそこの組織の参加は認めないという「排除の論理」を主張し続けました。原水禁はこうした原水協の排除の論理に対してきびしく対決し、「核」に反対するものであればだれでも参加できるようにするべきだという立場を守ってきました。
 原水禁と協調的態度をとっていた当時の日本原水協幹部が、日本共産党から批判され、草野理事長と吉田副理事長が一方的に解任され、日本平和委員会でも森事務局長を更送されるという事件が起こってからは、彼らの参加を認めるかどうかで、厳しい対立が続きました。原水禁は「核兵器廃絶のために共同行動」を呼びかけ続けましたが、原水協は頑迷に反対者の排除にこだわり、幅広い市民の要求と真っ正面から対立することになりました。
 市民団体を含めた会合でも、実行委の構成問題については「不一致」を理由に論議の先送りをはかり、大会日程の決定や、海外代表への招待状発送をまず行うべきだ、と繰り返し主張しました。
 結局、「吉田嘉清氏らを排除」(原水協の主張)するか「排除を認めない」(原水禁の主張)のかが1985年に世界大会が再び分裂するに至った主要な原因となりました。原水協側は大会の構成は、「原水協も納得できる団体、個人で構成すべき」としたのですが、その発想は一見正しいように聞こえても、実質的に原水協の意志にあわせて参加者を制限することを意味します。原水禁と総評は「参加者を、差別、選別することにつながり、平和運動の自殺行為だ」と反発しましたが、原水協は「あくまでもお互いが納得、一致したうえで進むのが共闘の原則」と繰り返しました。
 このように、原水禁は「排除の論理」に強く反対して、けっして同じ過ちを繰り返すまいと固く誓ったのです。私たちが排除する必要があるのは、ただひとつ「排除の論理」をふりかざす発想だけとすべきではないでしょうか。


上記は一原水禁活動家としての本HP作者の見解です。
原水禁国民会議の組織としての立場は原水禁のWebをご参照下さい。↓
原水禁国民会議HP:http://www.jca.apc.org/gensuikin/