低地ニッコウキスゲ

ニッコウキスゲと聞くと、日光霧降高原、霧ヶ峰、尾瀬等の高地の高原に7月から8月にかけて一斉に咲く花を思い浮かべるが、散歩道の途中の古墳程度の観音山に5月の中頃からかなりの数が咲き、論議の種になっている。
観音山は標高97.5m、周囲は約850mの丘で、周辺の土地より40mぐらい高いに過ぎないが、それでも熊谷市の最高地点である。
この程度の高さに咲くニッコウキスゲは専門家によると極めて珍しいそうである。 一時はユウスゲとノカンゾウの交配雑種のムサシノワスレグサと考えられたが、この花が結実する事からそれは否定され、低地に咲くニッコウキスゲと考えられるようになった。( 「一夜の命ユウスゲ」  「ノカンゾウは忘れ草」 の項参照)

ユウスゲ         ノカンゾウ

低地型ニッコウキスゲとしては東京都に咲くムサシノキスゲが知られているが、関東平野の真っ只中のこの地にも咲いている。
ニッコウキスゲを地域によりエゾカンゾウ、ニッコウキスゲ、ムサシノキスゲと分けるむきもあるが、最近の研究によると、元は一つで、長年かかって緯度や高度に適応して、咲く時期等、その地独特の形に変化したと考えられるようになってきている。
従って、かっては関東平野のあちこちに咲いていたニッコウキスゲが、開発等に押されて、わずかに東京の古墳程度の浅間山(せんげんやま)や、この地の観音山に残ったと考える方が妥当のように思われるが、今後の研究を待たねばならない。

観音山の群生

このキスゲの仲間は東南アジアに20種ほど生育しており、日本にも、ノカンゾウ、ヤブカンゾウ、ハマカンゾウ、ニッコウキスゲ、ユウスゲ等、10種近くが見られる。
万葉の頃はひっくるめてワスレグサ(忘れ草)の名で登場し、この花を身に付けると花の美しさでいやな事や悲しい事を忘れられるとされており、大伴旅人に次の歌がある。 「忘れ草 わが紐に付く 香具山の 古(ふ)りにし里を 忘れむが為」。
その後、ユリ科ワスレグサ属がノカンゾウ、ヤブカンゾウ、ユウスゲ等、細かく分類されるようになり、ニッコウキスゲはゼンテイカと呼ばれていたが、次第に日光の地名の入ったニッコウキスゲが一般に浸透し、いつしかニッコウキスゲと呼ばれるようになった。
キスゲ(黄菅)は花の色が黄色く、葉が菅笠(すげがさ)を作るカサスゲに似ている事からきている。
園芸種のヘメロカリスはキスゲが欧米で品種改良されたもので、ギリシャ語で一日を意味し、又、欧米では一般的にデイリリー(Day Lily)と呼ばれるように、ニッコウキスゲは朝咲いて翌日には枯れる花である。
ただ、次々に咲くので、高原全体を黄色に染め夏山の代表的な花となった。

霧が峰や尾瀬とはいかないまでも、観音山でも群生を楽しめるが、何故、低地にもニッコウキスゲが咲くのかは今後の研究を待たねばならず、未だ謎である。

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