平成23年3月11日以降に起きた福島第1原発の一連の爆発事故(以下、原発事故という)によって、福島県民のみならず 関東一円の人びとは未だかつて体験したことのない放射能汚染に晒され、不安と恐怖を受けた。そのうえ広範囲におよぶ多量 の放射性物質の飛散と海洋への垂れ流しにより、外部被ばくと内部被ばく晒された。そして、この状態は今も続いている。 更には、福島第1原発4号機の原子炉建屋は事故後半壊状態となり、建屋内の核燃料プールには広島の原子爆弾5000発分 に相当する膨大な量の高レベルの使用済み核廃棄物が人間の手に負えない状態になっていて、再び大きな地震や津波に見舞わ れると燃料プール自体が倒壊したり水漏れを起こす危険が指摘され、しかも冷却系統の配管の破損、冷却装置の故障などによって 循環冷却システムが機能しなくなれば、プール内の使用済み核燃料棒が溶け出して膨大な量の高レベル放射能が自然界に放出さ れてしまう危機的状況になっていると専門家によって指摘されている。もしそのような事態に陥れば、東北や関東一円は放射能 汚染により人が住めなくなる危険があり、日本が滅亡する恐れがあるとも指摘されていて、その将来不安と恐怖は計り知れない。 このような原発事故による重大且つ深刻な被害を市民に与え、しかも予断を許さない4号機建屋の危機的状況が継続している 中にあって、東電は、厚かましくも家庭用電気料金の値上げ申請をし、政府はH24年7月25日平均8.46%値上げの認可をした。 この東電の値上げは、あたかも自らの過失によって重大な交通事故を起こした加害者が、なんら落ち度のない被害者に車の 修理代金とガソリン代を要求している有様と同じであり、東電も政府も、理不尽 極まりない。 原発事故により未曾有の被害をもたらし債務超過が明らかな加害者東電は、法的手続きのなかで破綻処理されるべきである。 (2012/7/26記*野田順一)
|
1. 相殺という法的手段によって電気代が消滅したと主張する利用者に対しては、東電は、本来、電気事業法18条により電気の供給を停止でき ない立場にあります(注1)。もし違法に供給停止すれば、東電は更に不法行為(民法709条)や債務不履行(民法415条)による損害賠償責任 を負うことになります。 しかし実際には、東電は、利用者が原発事故の損害賠償請求権とその月の電気料債務について相殺権を行使した場合、裁判所でもない東電は、 利用者の損害賠償請求を理由なしと勝手に法律判断をおこなったうえ電気料債務の支払がないものと一方的にみなして、文書で送電の停止措置の 予告を行い、実際に送電停止をおこなってきています。 このような東電のごう慢ともいえる行為態様は、本来許されるべきではないところですが、後記のような裁判所の判断によって、残念ながらその 行為の違法性の判断が正面からまだなされていないことを奇貨として野放しになっています。 したがって、もし東電が不当に供給停止の予告をしてくるようであれば、後記のような「給電停止措置の禁止」を求める仮処分申請を検討する必要 も生じることになります。なおこの場合は、過去の仮処分申請の却下理由を十分に踏まえて主張と疎明を組み立てる必要があります。 以下の2〜3の展開予想と末尾の注2の記述は、当司法書士が提起した仮処分申請が後記のように却下されたために、当分の間、参考程度に 留めておいてください。 …………………………………………………………………………………………………………………………… 2. 東電が利用者から相殺を受けてもなお電気代が消滅していないと主張するなら、東電は利用者を相手に訴訟や示談交渉をする必要に 迫られる(注2)ことになると思われます。その一方、内証証明で相殺を行った利用者は、当面は黙って東電の対応を待っていれば良いこと になります。 すなわち、相殺を受けた立場の東電としては、下記(注2)にも示したように電気料金を利用者から回収するためには、自ら訴訟を提起した り、示談交渉を能動的に行う必要に迫られる立場にならざるを得ません。そして、仮に東電において利用者を相手に訴訟を提起した場合、 逆に原発事故による損害賠償(慰謝料など)請求で反訴を提起される懸念があり、そのような事態になったことを考えると、東電は、司法 の場で原発事故を引き起こした幾多の事実と被害について一人ひとりの利用者の被害と真正面からから向き合わざるを得ない立場になり、 裁判所の判断が下されることになります。 そうなると東電は、「原子力損害の賠償に関する法律」第3条により無過失責任を負う不利な立場で、利用者の反訴請求(慰謝料の主張 など)を全部排斥して全面的に(ゼロ対100で)勝訴することは極めて困難と思われます。その意味で東電は、迂闊には提訴できない筈です。 3.このように電気料金を相殺したあとの展開を考えると、利用者としては、東電から訴訟などを起こされた場合になってはじめて応訴して 争えばよいことになります。 もうひとつの展開予想は、訴訟ではなく、東電から示談交渉をしてくることも考えられます。その場合は、示談内容を検討して収束して も良いし、納得ができないなら蹴飛ばしても良いでしょう。 そして、もし訴訟の事態になったら、利用者の主張の骨子としては、基本的には内容証明で主張した「自働債権」の内容を柱とする反訴 を提起すればよいことになります。 以上のような展開が予想できるため、相殺を主張した利用者としては、時間のあるときに、被害を受けた証拠や自分が蒙った不安・恐怖 感情について、証拠として整理しておくことをお勧めします。ちなみに、訴訟を提起されたときの反訴の要領や反訴請求原因の法律構成 は、それ程難しくはないので、本人訴訟で対応できると思われますが、支援を求める必要があるようでしたら、身近な司法書士や弁護士 に相談してみてください。 …………………………………………………………………………………………………………………………… 4. 当司法書士が今後もし東電から訴訟を受けたら、反訴を提起して争う予定であり、その進展をホームページ上に順次公開 してゆくつもりです。 公開 その1 〔東電から回答書が〕⇒ 回答内容についての検討 その2−@〔東電から給電停止予告文書が〕 ⇒ 反論並びに送電停止行為の禁止警告 A〔東電から新スタイルの送電停止予告文書〕が送付されるようになりました。 これに対する反論ファイルは、こちら ⇒その2 「反論並びに送電停止措置の制止警告」 東電は原発事故の損害賠償(慰謝料など)請求債権で電気料債務を相殺してきた人に対して、「慰謝料に理由がない=支払がない」ものと 一方的にみなして、電気供給約款「36.供給の停止」規程を適用して該当者に順次同一内容文書を送付しているようです。 その3 〔当司法書士にも送電停止予告文書が〕 ⇒ H24.10.03 直ちに横浜地裁小田原支部に「送電停止措置禁止仮処分命令申請」を行いました。 当司法書士と同様な文書の送付を受け、仮処分申請の検討をお考えの方は、直ちに準備に着手を !! その場合はこちら ⇒ 「送電停止措置禁止仮処分命令申請」の要領 その4 横浜地裁小田原支部に申立していた「仮処分命令申請事件は却下」になりました。 却下理由の要旨は次のとおり。 (1)「損害賠償(慰謝料)債権の発生原因事実となる精神的苦痛とは,放射性物質の放出等による一般的・抽象的な不安感,危惧感等では足りず」 (2) 「放射性物質の放出・被ばく等によって社会的に受忍し得ない程度に健康被害や生活被害を被るなど,個別的・具体的な精神的苦痛を被ったと いえるものであることが必要であると解すべき」 などと、原審の判断は、一見もっともらしい表現ではあるが、最初から狭き門の抑制的な高いハードルを設けることによって原発被害者の賠償請求を 極力抑制しようとする東電を擁護する排斥装置として機能する判断基準になってしまっています。 原審のそのような判断基準は、正義に反するし、一般国民が「放射能被ばくに少しも晒されることなく生活したい」、「内部被ばく、外部被ばくなどの 恐れや被ばくによる健康不安がない状態で生活を営みたい。人生を全うしたい。」と願う、基本的人権である憲法13条の「幸福追求権」の精神に明ら かに反していて、違憲と考えられるので、東京高裁に抗告しました。抗告状はこちら しかしながら、その後、東京高裁の判断も、原審の判断を追認した結果に終わりました。そこで、残念ですが、上記「今後の展開予想」の内容は、別の裁判で 「裁判所でもない東電が一方的に利用者の自働債権(慰謝料請求)を否定する判断をおこなって、送電停止措置をすることが許されるか否か」の司法判断が なされるまでは、大巾に修正を余儀なくされることになりました。 裁判の現状と今後の課題 これまで仮処分申請で求めた「送電停止措置禁止仮処分命令申請事件」においては、裁判所の判断は、相殺権の基になった「慰謝料請求の被害要件事実」 についての具体的被害主張と疎明が無いとの理由から、いわば「入口で却下されている」状態です。つまり、本体の仮処分申請で裁判所に判断を求めていた 「裁判所でもない東電が一方的に利用者の自働債権(慰謝料請求)を否定する判断をおこなって、送電停止措置をすることが許されるか否か」についての 司法判断に入る前の段階で、損害賠償請求の疎明が無い(或いは足りない)との理由で、本来求めている司法判断までに辿り着けていない状態です。 かくして、先のような東電の主張を擁護する裁判所の現状にあっては、今後の対策と課題としては、原発事故による賠償請求をおこなう場合には、 慰謝料請求のみを自働債権の柱に据えることなく、より具体的な実害・被害を賠償請求に据えて相殺権を行使することが求められていると思われます。 その意味では、世上には私以上に原発事故による深刻な被害を現に蒙っている方々が多数おられると思われますが、そのような方が原発被害の損害賠償 請求権を基に、東電に対して相殺権を行使する方が多数現れることを期待しています。 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………… 注1) 東電は、正当な理由がなければ電気の供給を拒めない立場(電気事業法18条)にありますが、現状では、相殺権を行使した利用者に対して、裁判所でも ない東電が一方的な判断で、利用者の相殺権の基になった賠償請求(自働債権)を否定する判断をおこない、電気料金の支払いが無いものと一方的に決めつ けて電気の供給を停止する予告と停止措置をおこなっています。 このような身勝手な東電の対応は、法律社会のルールに反するし電気事業法18条の精神に反するとの理由から、当司法書士は東電の給電停止措置の禁止を 求める仮処分申請を行いました。しかし裁判所は、地裁・高裁ともに、利用者の「原発事故の賠償請求の被害要件事実」について極めて高いハードルを設け ることによって原発事故の賠償請求を極力抑制しようとする東電の政策に手を貸す一方、たとえ利用者が仮処分申請で訴えても被保全権利の疎明が無いなど の理由をもって被害者の賠償請求を入口でことごとく否定して、東電の勝手な判断を容認している結果になっています。 注2)利用者から相殺を受けてもなお東電が電気料債権が消滅していないと主張を譲らず、一方利用者は相殺により債務が消滅したと主張するなら、 そこに法的紛争の膠着状態が生じることになります。しかし利用者としては、この膠着状況下でも積極的に動く必要はなく、黙っていれば良いのです。 一方東電は、このような膠着状態のなかでは、電気料金の売掛金回収ができず、しかも利用者への電気の供給を停止できない法的立場にあるため、 閉塞状態に陥ることになります。 かくして、東電がこの閉塞状態を打開して利用者から電気料金をどうしても取り立てる必要があるなら、東電の側において能動的に訴訟を提起するか 裁判外で示談交渉するかの選択を迫られることになります。しかも、東電としてはここで訴訟などで売掛金回収を図るためには費用対効果の検討も考慮 しなければなりません。 このような膠着状態を作り出すことができる利用者は、金2000円位の内容証明の費用でその月額の電気料金を法的に消滅させてしまうのに対して、 東電は、相殺を受けて消滅している懸念がある顧客のその月額分の未収金回収のために、個々の利用者を相手に裁判を提起するとしたら一体いくら の費用がかかるというのでしょう。 このような歴然とした立場の差があるなかで、東電がもし訴訟を提起した場合は、当然利用者から原発事故による損害賠償の反訴が提起される事態 となるので、利用者が主張している相殺の中身(原発事故の被害実態)が真正面から争点となり、司法の判断が下されることになるのです。 そのため東電は、利用者ごとに原発事故による有形無形の被害に、真正面から向き合わざるを得ない立場になるわけです。 |
||
書式(ワード):電気料金債務に対する相殺の意思表示 書式(一太郎):電気料金債務に対する相殺の意思表示 |