喜多方ラーメンを食べに行ったら、会津方言の暖簾が掛けてあり、見ると、「いっぺえ 一度」と書いてある。あるいは「kw→p」の例ではなかろうか。つまり、一回(ikkwai)からの転化である。

kw→pの例としては、ロドリゲス大文典の博多方言が有名であるが、あちこちにある。「桑つ実」がパズンになるのは対馬豆酘(つつ)。奥村三雄「対馬方言の性格−言語史研究の一方法−」国語学17(1954.8.20)

博多で、壊れることをパケルと言うのであるが、これはコワケルの転化したものではあるまいか。ロドリゲスの説いたような字音のkwaに由来するパは現在の博多方言には残っていないものと見られる。

「食う」をプというのは鹿児島。

比較言語学でよく説かれる〈一見すると関係なさそうだが実は同源〉というのもこれである。(高津氏著書など参照)

ヤコブソンの弁別素性の考え方で行くと、kとpは近いのであった(舌を使わないから口むろが分けられない)。kwは、kに更に唇音性を加えるのであるから、より一段とpに近づくのであろう。

心学道話で、「霍乱」を「はくらん」と書く話が出て来る。多分違うとは思うがひょっとしたら「pakuran」かもしれない、と想像をたくましくすることも出来る。 追加(6/27)