登山用GPSログ分析ツール(トレイルランニングでも利用可能)
記録されたGPSのログを帰宅後に、地図上に表示し掛かった時間などを見ることも楽しみの一つなのですが、折角のログなのでもう少し有用に活用できないかと考えてみました。
インターネット上では、ランナーやロードバイク(自転車)などはGPSログを積極的に活用されている事例が多々あります。記録向上のため身体能力を高める上で課題や効率などを分析しトレーニング効果を高める狙いがありそうです。しかし登山やトレッキングは、タイムを競うこともないので、別の観点からGPSログを見る必要があるかと思います。
目的はあくまでも自分の傾向と山ルートの傾向把握としてみます。
GPSログに記録されている基本情報は、
@場所(緯度、経度)
A時間(日時、分秒)
B高さ
の3つしかありません。(例外としては、速度、カロリーや加速度、心拍数などを記録する機器もあります。)
この3つのデータから分かることは、項目を羅列すると、
@登山(記録)開始時間
A経過時間
B移動(行動)時間と停止(休息)時間
C水平区間距離、垂直移動距離。
D全体速度(水平と垂直)
E最高高度、最低高度、高度差
F総上昇量、総下降量
G消費カロリー(推定値)
などが計算出来ます。
上記で得られたデータの相関関係を分析する場合の組み合わせをまとめてみます。
|
分布分析 |
水平速度 |
垂直速度 |
勾配% |
高度 |
休憩判定 |
水平速度 |
ヒストグラム |
# |
# |
# |
# |
# |
垂直速度 |
ヒストグラム |
分布図 |
# |
# |
# |
# |
勾配% |
ヒストグラム |
分布図 |
分布図 |
# |
# |
# |
経過時間 |
# |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
積算水平距離 |
# |
分布図 |
分布図 |
? |
〇 |
分布図 |
積算垂直距離 |
# |
? |
? |
? |
# |
# |
高度 |
# |
?分布図 |
?分布図 |
?分布図 |
# |
# |
#は該当しないか、重複のケース
ただし、GPSログには位置誤差・高度誤差が含まれていますので、分析の有効性と、結果をどう活用するかの課題は残ります。
まずはEXCELを使って試しに分析してみましたのでご紹介いたします。
データ分析(基本分析)
最初に基本的な分析情報です。2つのログが比較できます。(下記は例)
|
【A】 |
【B】 |
(差)A-B |
開始日時 |
2017/12/2 11:53 AM |
2017/12/16 11:14 AM |
|
終了日時 |
2017/12/2 4:06 PM |
2017/12/16 2:59 PM |
|
経過時間(秒) |
15,139 |
13,546 |
1,593 |
経過時間 |
4時間12分19秒 |
3時間45分46秒 |
0時間26分33秒 |
(移動時間)(秒) |
3時間48分16秒 |
3時間35分43秒 |
0時間12分33秒 |
上昇時間 |
1時間57分41秒 |
1時間51分5秒 |
|
降下時間 |
1時間45分5秒 |
1時間40分18秒 |
|
(停止時間)(秒) |
0時間24分3秒 |
0時間10分3秒 |
0時間14分0秒 |
水平区間距離(km) |
8.1 |
7.6 |
0.5 |
全体速度 km/h(休息含む) |
1.9 |
2.0 |
-0.1 |
最高高度(m) |
951 |
-3.4 |
|
最低高度(m) |
386 |
383 |
3.4 |
高度差(m) |
562 |
569 |
-6.7 |
総上昇量(m) |
770 |
736 |
34.3 |
総下降量(m) |
795 |
742 |
52.5 |
登り下り差(m) 総上昇‐総降下 |
-25 |
-6 |
|
|
|
|
|
平均水平速度(km/h) |
2.1 |
2.1 |
0.0 |
平均上昇速度(m/h) |
392.5 |
397.4 |
-4.8 |
平均降下速度(m/h) |
453.7 |
443.9 |
9.8 |
|
|
|
|
ログデータ数= |
939 |
849 |
90 |
EK度数 |
19.74 |
18.65 |
1 |
カロリー(kcal) |
1,269 |
1,177 |
92 |
EK度数は、ヤマレコのhttps://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=142 を参照させていただきました。合計距離 + (累積標高上り/100)
勾配分布(ヒストグラム)
横軸は斜面(傾斜)を示しています。100m進んで10m登ると10%となります。このグラフは、この山がどれ位の斜度が分布しているかが分かります。おそらく、個人に依存せず誰が歩いても同じ結果になるはずなのです。(別の日のログと比較して表示していますが、多少違った結果です。)
ヤマレコのデータで比較してみると、同じルートでも距離データが違っている例がありました。おそらくGPS機種による違い、データが受信できず抜け落ちている等が考えられますが、みなさまも色々お試しいただければ幸いです。このEXCEL計算が間違っている可能性も当然ありますが・・・(^^;
上記は経過時間での斜度の分布です。どの斜度の坂にどれ位時間を使っているのかが分かります。このシートでは2つのログの比較が出来ます。→過去の自分のデータ、季節による違いやヤマレコ等から気になる人のログをこっそり分析・比較も出来ます。
傾斜の分布を説明いたします。同じ距離で同じ高さに登るとしても、下記のように斜度が異なる場合が多々あります。
上記の場合、同じ距離で同じ高さに登る場合でも斜面は、上が、33%傾斜 600m、下が、25%傾斜 200m+37.5%傾斜 400m となります。それぞれの斜面がどれ位多いか分かります。
上記は傾斜と平均水平速度の関係です。登りは、は急斜面では水平速度が遅くなります。データが少ないと誤差が大きくなるグラフなので信頼性は低いため上記では表示範囲を+−60%の傾斜に絞っています。(下りの場合も同じような傾向です。)
上記は分析例ですが、グラフはー100%〜100%まで表示可能です。
上記は、勾配%ごとの垂直距離(m)の分布を計算したものです。同じ道を行き返りする場合はグラフが対象となるはずです。また個人能力の影響は少ない地理的要因が高いはずです。上記は他人(ヤマレコデータ)とのデータ比較ですが若干違ったルートを歩いた可能性があります。このグラフが大きく異なる場合は、データの誤りを疑うべきかもしれません。
たとえば上記のようにほぼ同じルートなのに距離が違うものがあります。このデータは信用性が低い可能性があります。
上記は、勾配%ごとの平均垂直速度の関係をしめします。勾配が大きくても平均垂直速度は落ちていません。降下時は斜面がキツイほうが垂直速度は大きくなっています。ただし前進速度は落ちるはずです。斜度が+−60%を超えると異常データが計算されているようなので範囲を絞っています。信用度は低い分析となります。
上記はネット上にあったログデータを使っての分析結果です。斜度がきつくても垂直速度は落ちていません。
水平速度分布(ヒストグラム)
横軸は、速度(水平時速)です。どれ位の速度でどれ位の距離を歩いているかが分かります。
上記の例は、速度と経過時間を表したものです。とれぐらいの速度で何分歩いているのかわかります。上記青い人は時速0.8〜1.0kmの速度で歩く時間が長いということになります。一旦スケールは時速8.4kmまでとしていますので、トレイルランニングの方には足らない可能性はあります。
垂直速度分布(ヒストグラム)
垂直速度別で水平移動距離を分けたものです。登りと下りで速度が違うため2つのピークが出ていると思われます。どれ位の上昇、下降速度で歩いているのか分析することができます。ただしこのグラフは、山のルートに依存するはずなので、使い方がピンとこないですね。
上記は垂直速度別、掛かった時間を振り分けしたものです。おおよそどれぐらいの上昇速度に一番時間が掛かっているのか分かります。
上記は垂直速度別の垂直距離分布を示しています。
勾配と水平速度の相関関係
一般的に斜度があると水平速度が遅くなるはずです。上記ヒストグラムでも勾配%と水平速度分析済みですが、散布図を使ってデータを分析することが出来ます。
実際分析すると斜面がキツイ(グラフで右になると)速度が落ちていることがわかります。他人と比較すると能力差が分かります。
色々試行錯誤いたしましたが、区間毎に分ける方が見やすいことが分かりました。登り始めと下りとでは傾向が違うのでログデータ数ごとに分けてグラフ化しています。上記の例では1番目から499番目のデータ(主に登り)となります。
上記は下りの例です。斜度がきつくなると水平速度は遅くなっています。(斜度が−10%以下の緩やかな道は、時速2km以上の速度が出るデータが増えます。)
下りでも他人と比較すると速度の違いが明確ですね。
勾配と垂直速度の相関関係
これも上記ヒストグラムですでに分析済みですが、区間毎での散布図による分析が行えます。斜面がきつくなっても垂直速度は落ちずにむしろ早くなることが分かります。ただしある程度の斜度で速度は鈍化します。(青いログ例)
お好みで、近似線を引く事もできます。
上記は下りのケースです。斜度がキツイほど降下速度は増えているように見えます。
高度と速度の相関関係
これは、高度と水平や垂直速度に相関関係があるのか調べるためのものです。役立つかは不明です。
休息分析
GARMINで表示される「トリップ(停止積算時間)」「トリップ(移動積算時間)」は実際とは違った表示となるためあまり参考にしていませんでした。そこでログからどれ位休憩しているのか分析してみることにしました。円グラフは休息と歩行の割合を示しています。(単位は分です。)
GPSは計測誤差のため、停止していてもログは動くので、休息しているのか判定に工夫が必要です。上記はAとBの2つのログでの休息分析となります。判定方法の違いでA1,A2,B1,B2と4つのグラフとなります。A1とB1は平均移動平均で判定しています。そのため実際よりも少し遅れて判定されます。A2,B2は垂直、水平歩行速度で判定しています。それぞれの判定感度は、パラメータで調整可能です。実際に合うように調整してみてください。
上記は時系列でのグラフです。上がA1とB1、下がA2とB2となります。最近は野鳥観察・撮影が増えたため、休息時間?が増えてしまいました。
時間経過と速度グラフ
時系列での速度変化をグラフにしたものです。水平と垂直で分けて表示してみます。
上記は、経過時間で水平速度がどのように変化しているかを表示しています。
上記の例は、経過時間での垂直速度変化をしめしています。
距離と速度グラフ
積算距離での速度変化をグラフにしたものです。水平速度と垂直速度で分けて表示してみます。
時間と高度のグラフ
このグラフは、カシミール3Dなどでも見えますのでとくに目新しくないですが、AとB二人(2つ)のログを比較できるように作りました。
上記は、時間と高度のログ比較です。同じ山なのですが、高さが違っているのは誤差のせいでしょうか。
2000m級の山での比較です。早いひとは登りも下りも早いですね。
上記は、過去の自分のログとの比較です。距離での比較なので同じ形になるはずなのですが、少し違っています。
これはヤマレコ記録データ(上記2000m級と同じデータ)との比較ですが、距離と高度がほぼ合っているので比較対象となると判断できます。
上記は、ほぼ同じルートでも距離が異なっているケースです。この対象データの信用性は低く、比較してはいけないことが分かります。おそらくデータが改ざんされているという訳ではなく速度が速いのと、ログ機器の受信精度の問題なのかもしれません。
データ分析でも、水平距離で約‐2kmも差が生じておりますが、最高高度が1981m(36m高い)となっており、総上昇と降下の合計が逆に約180mも多く記録されていました。(もちろん自身のGPS機器の精度も疑う必要ありますが・・・)
地図等は表示されませんが、AとBの2つのログで歩行ルートが違っていないか比較検証するときに利用してください。上記例では一部違ったルートを歩いていることが分かります。
(まとめ)
GPSログから分かるのは、自分が普段どの程度の速度で歩いているのか、また斜面による速度変化と上昇速度能力の限界を見ることができます。次の山の予測や、ルートの傾向性がつかめれば良いかと考えています。もう少し改善の余地はあるかと考えています。
ログの活用としては有用か不明ですが、時間をかけて作りましたので公開したく考えております。(EXCELファイルは圧縮解凍後13MB程度の大きさですがEXCELで開くのに90秒程掛かりますのでご注意下さい。)
ZIPパスワードが掛かっている場合は、ホームページ先頭のパスワードをご確認下さい。
http://www.ne.jp/asahi/nature/kuro/
GPSログ解析用EXCELの使い方
1)GPXデータの取り出し
まずGARMINもしくはお手元のGPS機器からログデータをGPX形式でPCに取り出します。
一番簡単な方法としては、GPS機器からカシミール3Dで取り込んでから、ログをデスクトップなどにエクスポートすることです。 カシミール3Dからのエクスポート方法は、下記のようにトラックを右クリックして『ファイルへの書き出し(X)』を選んでください。
ファイルの種類はGPXファイルを選択してください。
GPSのログデータのGPX形式ファイルは、XMLという形式で作成されています。このファイルはテキストとしても直接見ることが出来ます。
データ取り込みには特にカシミール3Dを経由させる必要もないのですが、カシミールが出力する経度と緯度と高度の列の一番先頭に、“lat”、“lon”、“/ele”と記載した列を探して参照するように作られています。
項目名は変更できますので、入力するGPXデータ形式に合わせることで、いろんなメーカーのログに対応させることが可能です。
2)GPX形式をEXCEL形式に変換
方法は非常に簡単です。GPXログファイルをEXCELにドロップするだけです。
最初は上記の質問がきますので「はい(Y)」を選択して開きます。
つぎに上記質問が来ますので、『読み取り専用のブックとして開く(W)』を選択して下さい。(これはV4.0から仕様を変更しました。)
取り込みが終了します。(数分掛かる場合があります。)
変換が終了すると別のBookが開かれます。先頭の/GPXの行を削除して、項目名が一番先頭にくるようにします。
そのあと、全データを選択(A1セルの左上をクリック)し、コピーして入力タグ(A)か(B)に貼り付けます。
ここで注意点としては、貼り付けタグのEXCELは保護が掛かっていませんので、データを消去させる場合、誤って行を消さないようにしてください。(保護を掛けると貼り付け速度が遅くなるため保護を外しました。ログの編集は別のEXCELシートでコピー前に行ってください。もしEXCELがおかしくなってしまったらまたホームページから最新版をダウンロードしてください。)
もし貼り付けたデータを消したい場合は、セルを全部選択してから「delete」キーを押して消してください。
貼り付け時は、A1セルを選択して、「値」のみを貼り付けてください。念のためですが一番先頭は項目も貼り付けてください。(必須です。)
分析は2つのログが比較出来ますので一番目のログを入力タグ(A)に張り付け、二番目のログを入力タグ(B)に張り付けて下さい。
3)基本パラメータのセット
「GPXデータソース選択」
ログデータは、同じGPXファイルでもカシミール3DとGARMINでは、データの列と項目名が異なります。大体どのメーカーの機器もソフトも同じ項目となるようなので、半自動でデータが取り込まれます。
もし上手く読み込みができれば右側に[A]OK,[B]OKと薄い緑色になります。
読み込めない場合は、EXCELやテキストでデータの先頭の項目名を確認して上記の文字を上書きしてください。具体的には、”lat”,”lon”,”/ele”,”gpxtpx:hr”,”trkpt/time”です。
(余談ですが、文字は完全一致ではなく部分一致で探します。)
「ヤマレコ」のGPXデータも一旦カシミール3Dに取り込んだ後、出力していただければ分析できます。
“lat”とはlatitude(経度:赤道が0度、北極が90度)
“lon”とはlongitude(経度:グリニッジ子午線が0度、その地球の裏側が180度)
“/ele“つまりelevation(高度:海抜かジオイド面からの標高かは不明)
“trkpt/time”は標準時間での記録日時です。
“hr”はheart rate(心拍数・脈拍数)です。
カシミール3Dから出力したXMLデータには心拍データは保存されません。
列が違っていても、1行目の文字で判定していますので簡単にデータが選択出来ます。またGARMIN以外の機器でも出力されたフォーマットの一番先頭文字を「基本パラメータ」のに記載いただければ、その列を自動的に選択します。
「ステップ数」
GPSログを間引きするかどうかです。1は間引きなし、2は半分、3は3分の1にデータを間引きます。通常は1(間引き無し)でご利用下さい。データは3000個まで分析できますが、4000個まではこの間引き機能を使えば分析可能です。
「標準時間差(時)」
海外で利用する場合に変更してください。日本だと変更不要。
「移動平均の重み配分」
GPSデータが誤差を多分に含むため、加重平均を取っています。重みづけをお好みで変更可能です。
「休息判定」
A1とB1:ログとログの間隔が何メートルかを判断しています。休息と判定しています。垂直距離との二乗平均で判断しますが19ポイントの平均位置から算出しています。そのため少し遅れて判定されます。
A2とB2:垂直、水平速度で判定しています。判定の閾値は、パラメータを変更させることが可能です。休息中でもログは誤差で暴れるため休息の判定ロジックが難しいです。
「移動速度グループ分け」
水平や垂直速度を見やすくするためにグループ分けしています。
「距離グループ分け」
速度の異常データやノイズを排除するためにグループ分けしています。
「体重、ザック重量」
カロリー計算用です。正直カロリー計算が正しいかどうか不明です。低めに計算されますので今後改善が課題です。
4)分析
EXCELのタグを見て頂ければ入力後分析は完了してグラフ化されています。タグは
「データ分析」 ログから分かる時間、速度、距離、最高&最低高度、総上昇、総降下量、平均速度など
「勾配_水平速度」 速度と斜度の関係
「勾配_垂直速度」 垂直速度と斜度の関係
「勾配%分布分析」 ルートにおける斜度別分布
「水平速度分布」 水平速度のヒストグラム
「垂直速度分布」 垂直速度のヒストグラム
「休息分析」 基本パラメータで感度を調整してみてください。
「時間_距離_高度」 経過時間、歩行距離での高度変化
「経過時間と速度」 速度の時間での変化です。
「歩行距離と速度」 距離と速度変化です。
「歩行ルート」 2つのログを重ね合わせて表示したものです。
「心拍データの分析」新たに心拍データ分析を追加しました。→詳細はこちらへ
それ以外のタグは内部計算用なので無視してください。
各グラフを編集することが可能です。
上記グラフのメモリ範囲を変更させる場合は、上記赤で囲んだとこを右クリックすると上記メニューがでますので、「軸の書式設定(F)」を選んでください。
軸の書式設定で表示範囲を入力します。この操作は、縦軸でも同様に変更することもできます。→グラフを見やすく変化させることが出来ます。
このEXCEL分析シートがなんらかお役に立ちましたら幸いです。
(EXCELはMicrosoft Office2016で作成しています。)