最判昭和33年9月30日(民集12巻13号3039頁(昭和31年(オ)第42号))

(原審:東京高判昭和30年10月4日(昭和30年(行ナ)第16号)

<事案の概要>
 X(原告,上告人)は,昭和28年10月1日に訴外弁理士Aらを代理人として,煉炭の製造法に関する発明を内容としてその特許を出願したところ(昭和28年特許願第17775号),審査官は,昭和29年10月21日に拒絶査定をした。
 これより先に,該出願に対し拒絶意見通知書が前記代理人に送達されたとき,及び該拒絶査定が送達されたとき,代理人はXに対してこれらが送達されたことを通知したが,Xは何等の通知をもしなかったので,該代理人は該拒絶査定に対し抗告審判の請求することもなく,30日の不変期間を経過してしまった。
 しかしながら当時Xは病気のため,該不変期間を守ることができなかったので,Xは昭和29年12月18日,該代理人により,制規の手続に従い,期間を守ることができなかったことを医師の診断書により証明して,期間懈怠の結果免除の申請と同時に前記拒絶査定に対する抗告審判の請求をした(昭和29年抗告審判第2551号)。
 該抗告審判の請求に対し,特許庁は,昭和30年1月28日「抗告審判請求人には代理人がおり,その代理人の身上に生じた不慮の事由によりその期間を遵守し得られなかったものでないから,たとい抗告審判請求人に過失がなかったとしても,代理人がいる場合には,特許法第25条にいう当事者の責に帰すべからざる事由によったものということはできない」との理由で,該抗告審判請求却下の審決をなし,その謄本は昭和30年2月11日にX代理人に送達された。
 X出訴。
 原審(東京高判昭和30年10月4日(昭和30年(行ナ)第16号))は,Xが本件特許の出願に当り特許庁に提出した委任状には,Xは訴外弁理士Aらを代理人として,「一特許願ニ関スル一切ノ件並ニ本件ニ関スル取下出願変更出願人名義変更証明申請抗告審判及提出物件ノ下附ヲ受クルノ行為」等の権限を委任する旨の記載がある(もっとも該文言のうち「特許願」以外の文字は,全部印刷されたものである。)から,該弁理士Aらは,Xを代理して拒絶査定について抗告審判を請求する権限をも与えられていたのであるから,代理人Aらがその権限に基き意思を決定し,抗告審判を請求することができないとは解されない,として,Xの請求を棄却した。
 X上告。

<判決>
 上告棄却。
「 上告代理人高橋登,同高橋正己の上告理由ついて。
 所論は,本件につき弁理士高橋登,高橋正己は上告人を代理して特許出願の拒絶査定について抗告審判を請求する権限を与えられていなかつたと主張するが,原判決が乙第1号証により右権限をも与えられていたものと認定したことは首肯することができる。委任状における権限の事項が印刷されたものであり,その委任状が1年前に作成されたとしても,これがために当事者がこれによる意思がなかつたものと解すべきでないこと,原判決の説示するとおりである。そして,たとい当事者本人について特許法25条にいう「其ノ責ニ帰スヘカラサル事由」があつたとしても,同人に代り行為をする権限のある代理人が存在し,この代理人にはなんら右の事由がない場合には,代理人がその権限に基き行為をすることを妨げるものではないのであるから,かかる場合には同条により懈怠した手続の追完をすることはできないものと解すべきことも原判決の説示するとおりである。されば,原判決には所論の違法はなく,論旨は理由がない。
 よつて,民訴401条95条89条に従い,裁判官全員の一致で,主文のとおり判決する。」