ふくろう博士のカナダ便り

ふくろう博士のカナダ便り  −5
ケローナ市民賞候補のビーバー君インタヴュー
2002年5月20日 取材:フクロウ博士



よう、ビーバー君。
今日もなかなかお精が出ますな!

そうよ。
毎年春にはこうやって
新築したり、
修理したり
 大変なんだ。

いやしくも一家の主だからな。

ガンバラナクッチャ!
ガーンバ、ガーンバ、
ガンバラナクッチャー!

どこかで聞いたテレビコマーシャルみたいだな。しかし大したもんだ。
人間様だってそこまで出来んよ。でも、カナダはまだいい方だ。ずぶの素人の親父でも、土台から柱からみな手作りで自分の家を建てる人間が結構いるからな。
 日本はその点だめだな。自分で自分の家を新築する親父なんかおりゃせんもン。
ペンキすら自分で塗ろうとしないんだからな
ダラシネエンダナ! 

俺様なんかは

ノミ一つで全部やっちまうんだぞ。

見てみろよ、
この切り口

いや、スゲーナア! あんたの歯は鋭利そのものだ。
三センチ巾の人間のノミだってこんなに綺麗に切り口は切れんだろう

ダラシネエンダナ、人間どもは! そんなことも出来んのかい。
ただ俺様のノミは、使うたんびに同時に研げるという不思議な代物だということだけは言っておくけどね!

ところで、あんた、
去年一年いなかったじゃないか

そうなんだ。人間の野郎、
とんでもない奴らだ! 
せっかく俺様が新築してんのに、
やきもちやきやがってよう。
俺様をここから100キロ離れた
湖水の中島に島流しにしやがったんだ。
とんでもねえったらとんでもねえ! 


見ろよ、

後ろの新しい
大きなマンションを!

自分たちはあんな
新築しながらよ、

どうして俺様が
つつましい家をつくるのを邪魔するんだい?!

分かる分かる。人間ドモもやっと最近あんなのが建てられるようになったんで、
少々有頂天になってるんだ。
最近はやりのツーバイフォーとかいうやり方で、木造六階建てだそうだ

最近できた工法かい。 
俺様の工法は在来工法も在来工法、何万年の実績の上にのってるんだぞ!
そうか。スゲエナア!
ところで島流しからどうやって帰ってきたんだい?

それはお前。動物の感覚は人間ドモのとは比べものにならんほどすごーく鋭いんだ。
このノミどころじゃない。

ほれ、この木の上にいるワシ。
奴なんかは、毎年カリフォルニアまで地図なしに1500キロ往復してるんだぞ。ついニ三週間まえに帰ったきやがったがね。
俺様だって鋭敏な鼻でケローナの上を通った風の臭いくらい何百キロ離れてたって分かるんだ。

そうか。スゲエナア!

いまごろ分かったのか。 ただちょっと困るんだよな。あの鳥どもが来ると。
こっちに向けて『POO』しやがるんだ
鳥のPOOもPEEもこっちは大変なんだ。去年なんかは子供が四つもできて、全部で六つの尻が毎日、朝から晩まで『POO,PEE、POO,PEE』さ。何しろ鳥のやつめ、15分おきにやるんだぞ。六人いれば二分に一回だ。しかもワシは臭い魚を食べてんだぞ

プーピー、プーピーか。まるでカナダの救急車みたいだな。
そんじゃ、他のところにいけばいいじゃん?

それが出来んのだ。POOのおかげで魚はあつまってくるし、
建築材料の木もよく育つからな
そうだよな。
あんたの家はたくさん建材がいるもん

そうなんだ。
ところが見てみ。
そこらの木の周りにみな金網の胴巻がしてあるじゃん。
人間どもはどこまで俺様の邪魔をしたら気がすむんだい?!

いや、心配するな。きのう市役所の公園課の親父に会ってさ。
このビーバー君の家は、素晴らしいツーリストアトラクションになるから是非、
保護してくれ」って頼んだんだ。
そうしたら『それもそうだ。なーるほど。じゃあ、一つその方向で検討してみるか。
ビーバーの建材の木も周りに沢山植えてやろうか』ってさ

 今ごろそんなこと分かったのかい。俺様なんかとうの昔から分かっとったんや。
 だから人がたくさん集まり、しかも自然のゆたかなこの公園の中に我慢して建ててきたんだ。
 見てみ。いまあんたが立っている道は俺様の家のまん前にあって一番よく家ん中が見えるじゃねえか。
 それを我慢して家を建ててるんだぞ。

俺様こそケローナ名誉市民賞をもらわなきゃならんのだ

ソリャもっともじゃ! ソリャもっともじゃ!

バーカ。いまごろわかったのかい。ダラシネエンダナ!
でも、市当局の親父に頼んでくれたことは大いに感謝するぜ。


だけどな、あんたは、ビーバー一族がど
れほど世界のために貢献してるか全然
知らんのじゃないか?

偉そうなこというじゃん


そうさ、俺たちは山奥の湖や川に沢山ダ
ムを建設するんだ。だから、水源の確保
には多大の貢献をしているんだ!


ほんまかいな

嘘だと思うなら、専門家に聞いてみな。実際、そんなことも知らんのかよ、お前っていう奴は。  いやしくもフクロウ博士なんだろう?!

参った。参った! 絶対尊敬するよ

分かったら、よろしい

ところで、さっきから気になっていたんだが、あんたが今度切った木は水の方向でなく横に倒れてるじゃん。どうしてなんだい? しくじったのかい?
誰がしくじるもんか。
今は家は立派に完成されているから、
ちょっくら伐採の練習をしたまでさ

だけど。皮を剥いて裸にしてるじゃん?

ハハーンあれかい? そりゃあ、お前、相手を裸にするほど痛快なことないからな!

バーカ!お前もか!お前って案外ダラシネエンダナ! ア・ホウ!


言われてカックン、ビーバー君。


こうしてフクロウ博士は飛び去っていったのでありましたが、
寂しい気持も一杯でした。

ビーバーの毛皮は19世紀から20世紀にかけてヨーロッパの帽子のファッションとなり、人間どもがムチャクチャ乱獲してしまったからです。

そしてまたそのおかげで、折角ビーバーが広大な範囲で貯水池をつくり、カナダの水がめを確保してくれていたのに、それが失われて水不足となり、多くの地域が砂漠化して取り返しのつかない大被害が発生したからです。



                              オワリ




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