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K's Room Odds & Ends

究極のランチ、日本橋さくら水産の乱…その後


前記事「究極のランチ、日本橋さくら水産の乱

 ある日のランチ、外へ出ると思わず雨だった。傘を取りに戻るのも面倒なので、どこか近い店で済ませよう、そう考えた僕は事務所から最も近い飲食店「さくら水産」へと入店する事となったのである(・・)。

 出来る事ならこの店だけは避けたい(爆笑)、そんなふうに心では思っているのだが、結局のところは雨等といった物理的な理由に止まらず、なぜか度々来店する事となってしまう。まるで、前世の生まれ故郷のように、意味もなく引き付けられてしまう不思議な場所のようである(・・)。

 八重洲通り沿いのビルの地下一階に降りる。店ののれんの前には、エレベーターホールだというのに券売機が鎮座している。そして、その上に置かれたホワイトボードには、その日の日替わりランチ、Aマグロのぶつ Bフライ盛り合わせと記されていた。Bを選び食券を手に後ろを振り向くと、目の前に店員のおばさんが立っていたので、思わず「うわっ」と声を上げ驚いてしまった。

 そして、おばさんはいきなり聞いてくる「はーい、A,Bどちらあ?」

 “おいおい、ここまで出てくるようになったのかよ!”

 のれんをくぐり、店の中の適当なカウンター席に腰を降ろして辺りを見回してみると、店が比較的暇な事に気がついた。手持ち無沙汰な店員が券売機の横まで出ていって、「A、Bどちら?」などとお客に聞いているわけである。なんとも商売熱心な店である(・・)。

 いつものように座るや否やご飯と味噌汁が出された。程なく目の前に置かれたおかず、そして、その中身は見まがう事のない「とんかつ」だったのである。確か僕が選んだのはBのフライ盛り合わせ定食だったはずである。当然盛り合わせなのだから、数種類の、最低でも二種類のフライが一皿に盛ってある様を想像する。念のため切り身を幾つか調べてみたが、やたらと薄っぺらいながらも正真正銘のとんかつなのである。時間も早く店内も空いていたので、「盛り合わせって、書いてあったよ」と、料理を出すおばさんに“一応”聞いてみた。するとそのおばさん、「ああ、揚げ物って意味なんですよ」と、事も無げに言ってのけたのである。

 “きたきたー!”

 もちろん僕はそれ以上追求したりはしない、何せ500円のランチ、そう、ここは天下の「さ○ら水産」なのである。

 そして、その日の驚きは更に続く。なんとそのとんかつには、潰れてしまってはいるがキャベツの千切りが添えられ、おまけにマカロニサラダが実に5本も乗っていたのである。普段であれば魚の焼き物などはプラスチックの皿の上にコロンとそのまま乗っていて、目の前に出された瞬間、何の抵抗物のない皿の上で自由自在に動き回っていたりするのである。

 結果として今日は大当たりだ。さっそく僕はキャベツにかけるため、カウンターの上のドレッシングに手を伸ばした。そして、再びここで小さな驚きに包まれる事となった。なんとカウンターに置かれているその和風ドレッシングは、包装のビニールに包まれたままの新品だったのである。すなわち、使うにはまず破線に沿って外装のビニールを剥がし、キャップを一度外してから中のプラスチックの口を引き抜き、再びキャップを取り付けてから使わねばならなかった。まるで公衆トイレに入った時にトイレットペーパーが切れ、次の新しい物に自分で取り換えねばならないような驚きと悔しさに似ていた(・・)。

 しかしながら、 “飲食店なんだから、ドレッシングくらい、客がすぐ使えるようにしておけよ!”などとは間違っても言わない。そう、ここは「さ○ら水産」なのである。

 大盛りのご飯を頬張りながら厨房の奥をなにげに覗いてみると、そこに、チェーン店をひっくるめてのキャンペーンなのか、ニコニコ大賞などといった見出しのポスターが貼ってあった。そして、そのポスターの中には今は姿を消した幻の店長の写真が今尚貼られていた。以前ここにいた店長というのは、客の前などということに一切憚らず、従業員の些細なミスを見つけては怒鳴り散らすような、ちょっと困った癖のある人物だったのだ。一度たりとも実際に見た事がなかったその店長の満面の笑顔がそこにはあり、僕はなんともいえない可笑しさに、一人ニヤニヤ笑っていた。

 これだけ通いつめていても、その度に新しい驚きと発見がある偉大なるこの「さ○ら水産」。店内は相変わらず騒々しく、少々暇だったこの日は、従業員達が自分の受け持つカウンターへ誘導しようと、のれんをくぐる客の争奪戦を繰り広げていた。しかしながら、鳥を媒体とした妙なウイルスが流行っている昨今、そんな事などどこ吹く風と、山と積まれた生卵を食べ続けている客達の方が数倍上手なのかなと思ったりもする今日この頃の僕なのである。

(04.3.28)

K's Room

東京大田区バドミントンサークル



 

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