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K's Room Odds & Ends

究極のランチ、日本橋さくら水産の乱


 日本橋の八重州通り沿いに、さくら水産という名前の某居酒屋がある。ご存知の方もいらっしゃるとは思うが、サラリーマン相手の安い居酒屋のチェーン店であり、都内にいくつかの店舗を展開しているようである。

 昼飯時となるとこの店がランチを提供している。AとB二種類の日替わり定食があり、定価はそれぞれ500円、他にも定番のメニューもあるが、概ね客はこの二種類の中の一つを選ぶ事となる。

 この店ののれんをくぐる前に、まずはホールの券売機で食券を購入する。ある日のランチのメニューは、Aランチ サバの塩焼き、Bランチ ミックスフライとなっていた。ちなみに、当日の日替わりランチの内容は、券売機の上に置かれた小さなホワイトボードに、お世辞にもうまいとは言えない文字で書かれている。それにしてもワンコインの500円は貧乏サラリーマンにとってなんとも助かる金額である。

 食券を手にのれんをくぐると、いらっしゃいませ!の声とほぼ同時に、「A、Bどちら?」といったおばさんの声が聞こえてくる。そこそこ大きな店である。で、声の主は割と遠い場所にいる。一瞬何を聞かれてるのか、聞かれているのが自分なのかと戸惑いながらも、概ねその声のする方向に向かって「A(エー)!」などと慌てて叫ぶ事になる。それを受けたそのおばさん、いったい何を思ったのか厨房に向かって「はーい、B(ビー)一丁!」などと叫んだのである。「A(エー)だよ!」と、追いかけて訂正する僕に、辺りの客からドヤドヤとにわかに笑い声が起きた。おばさんはちっとも意に介した様子もなく、「はーい、A(エー)に訂正!」等と言ったりしている。こっちは、なんともこっぱずかしい思いをしながら、後から冷静になってみると何の為に食券を買うんだ!と言ってみたくなったりするのである。

 適当なカウンターに席を取ると、待ち構えていたかのようにご飯と味噌汁が目の前に置かれる。ランチタイムの短時間に客が大回転する店のやり方なのだろう、ご飯も味噌汁もあらかじめいくつか盛ってあり、その結果としてご飯の表面はにわかに乾燥して冷え、味噌汁は碗の中で味噌と水が分離している。そして、みそ汁の中に豆腐などの具が見つかった場合には非常にラッキーである。概ね具となるのは、刺身の“つまの”大根か、付け合わせに添えられるわかめと決まっているからである。しかしながら、もちろんこんな事に文句を言う客はいない。何せ500円なのだ。二杯目のご飯はカウンターの上に置かれているお櫃からおかわり自由だし、もう一杯(飲みたいのなら)味噌汁のリクエストも出来る。カウンターの上に無造作に置かれた、おしんこ、のり、ふりかけ、生卵なども実に食べ放題といった嬉しいシステムなのである。ただ、夏場などにはこの山と積んである生卵が酸っぱい味を発している事があるので、この点には注意が必要となる(・・)。

 そして、程なく出てくるサバの塩焼きも凄い(・・)。プラスチックの長方形のお皿に、焼きあがってから30分は軽く経っているサバの塩焼きが何の添え物もなくコロンと目の前に出てくるのである。そこには申し訳程度のレタスの敷物さえ存在しない。しかしながら、もちろんこんな事で嫌な顔をする客はいない。何せ500円なのである。

 そして、店員は客にはばかる事もなくくだらない事で喧嘩をしているため、店の繁盛振りと相俟って実に活気に溢れている。ようく観察していると、どうもこの店の店長が精神的に不安定であり(・・)、ほんの些細な事で怒鳴り声を上げ、当たり構わず従業員に“絡んでいる”事が根本にあるようだ。そして、それに耐え切れなくなった店員が口答えをしては、まるでショータイム開演のように客の前での言い争いが勃発する。もっともこの店長はいつしか消え去ってしまったい(笑)、新しい店長になってからはこういった喧嘩の様子は見れなくなったようで少し残念ではある(笑)。そんなこんなで、まあ東京でも1、2を争う史上最低のランチを提供する店と言って間違いはない(爆笑)。

 しかしこの店、“こんなんでありながら”も、なんとなく惹き付けられて止まないところがある。よくは分からないが、こんなんであるからこその気軽さ、ご飯好きの僕にとっておかわり自由はとてもありがたく、何といっても500円である。弁当を買ってくるのとは違い、一応飲食店であり、味噌汁らしき物も出て、暖かなお茶も飲める(もちろん自分で注ぐ)。味に関しては論外であるが(笑)、値段とそれ相応の満足度でギリギリ許容範囲となっているような気がするのだ。

 まあそんなこんなで、おかわりのご飯を盛っている最中に、のれんをくぐった新しい客が、「A、Bどちら?」と大声でおばさんに聞かれ、「さ、刺し身定食!」などと慌てて叫ぶ姿に、思わず笑ってしまったりしている今日この頃の僕なのである。

(04.3.6)

K's Room

東京大田区バドミントンサークル



 

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