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K's Room Odds & Ends

きたない!うまい!宇都宮中華舗 Part 2


前記事「きたない!うまい!宇都宮中華舗 Part 1

カウンターの上には大皿が置かれ、その中に子供の握りこぶし程もある大きな鳥の唐揚げが山のように積まれていた。横から覗いたカウンターの中には、俎板の上に丸のまま煮込んだ豚肉のロースが一塊どかんと置かれ、どうやらA,Bそれぞれのランチを出す準備だけは万全のようである(・・)。

 僕の注文を受けた二人のコックがあたふたと料理を作り始めるのが見えた。どちらかといえば年かさのコックがフライパンを握り、もう一人の若いコックが補佐的な役目のようだ。僕の注文が入るまではぼさーっと立っていた印象の二人であったが、注文が入るや否や妙にテキパキと機敏な動きを見せ出した。そして、意外やこの二人のコンビネーションがいい。若い方のコックがすばやく冷蔵庫のバットからギョーザと麺を取り出す、そして、年かさのコックが調理にかかる間に、どんぶりや皿を並べ、タレや具材を揃え始めた。瞬時の迷いもロスもない、そんな動きに見えた。

 やがて、もうもうと湯気を上げる大鍋から麺が救い上げられ、年かさのコックが何度となく湯切りを繰り返した。すかさず調理台のどんぶりにもう一人のコックによってスープが流し込まれる。茹で上がった麺がその中に入れられると、瞬時にきざみねぎや、のり、ザーサイが加えられた。そして最後に、年配のコックが俎板にどっかりと腰を据えたままの定食用の豚肉に包丁を入た。そして、次の瞬間、その一切れが出来上がったラーメンの上におもむろに落とされたのである。

 “おいおい、チャーシュー兼用かよ・・・”

 若い方のコックがコンロの上のフライパンの蓋を開けた。とたん、油が弾ける音を立てて餃子も完成した。

 「おまちどうさま」の声と一緒に、ラーメンと餃子が目の前に出された。ラーメンのどんぶりにはおやじの親指が浸かっていて、手は洗ったのかぁ!と突っ込みたくなった。

 五個の餃子が載る皿は、その量を載せるにはあきらかに小さくて丸かった。皿の中でバランスを崩した餃子の一つが池に浮いた鯉のように白い腹をこちらに向け、薬味の小皿が激突したUFOのようにその中に突き刺さっていた。後で分かった事だが、餃子が皿に乗り切れていない根本的な原因は、この店が一種類の皿しか持たないことにあった。チャーハンやその他の料理がすべてこの一種類の皿で提供されているのである。

 “やっぱ、こんなもんだよなー”と、思いつつ、小皿にタレを作る作業に掛かった。カウンターに置かれたラー油のポットには、千人分くらいのラー油が満々と入れられ、透けたガラスビンの底にどっさりと沈んだ辛子が見えた。僕は中に何か小動物が紛れ込んでいないか細心の注意を払いながら、ラー油をすくった。

 割り箸を割り、タレを付け、おもむろに一つ目の餃子にぱくついた。

 そして、次の瞬間、僕は驚きのあまりに「うっ」とうめきの声を上げた。口の中に“お湯”が広がったのである。しかし、瞬時にそれが“お湯”でない事は分かった。それは、紛れもない肉汁だった。口の中に旨みの汁が溢れ、すぐ後を追って甘みが広がった。

 “まいうー!”

 以前、どこかの中国料理店で口にしたショウロンポーの味を思い出した。しっかりと焼き色の付いた餃子の皮も香ばしく、弾力も申し分ない。早い話が、めちゃめちゃ旨いのである!

 急いでラーメンのスープも啜ってみた。まあ、こちらは普通の醤油味である。しかし、その後僕は再び驚愕することとなった。チャーシューの味である。Bランチとされていた豚の香草焼き。俎板の上にその肉がどっかりと置かれ、おもむろに一切れが僕のラーメンに放り込まれたわけであるが、その味たるやなんとも絶品であった。口の中で程よくとろけ、しっかりと味を残す。思わず、なんじゃこりゃーと、叫びたいほどだった。

 “なんなんだよ旨い店なんじゃん!”

 目を上げると、二人のコックはもうする事もなくボーっとテレビを見ていた。

 わずか数分前、初めてこの店を目にしてからの試行錯誤はなんだったんだろうと思わずにはいられなかった。そしてその後の驚きは、大変なストレスの後に、念願の試験の合格通知を手にした喜びに似ている気がした。

 簡単に言おう。味は満点、しかし、一般的な店舗の“常識”でいえば、それ以外はすべて論外の店だったのである。

 やがて十二時を回る頃には、この店のわずかな席が瞬く間に満席になってしまった。そして、やってくる客はどの客も慣れた様子でバタバタとサッシ戸を開けて店内に足を踏み入れ、メニューなどには一瞥もくれず(当然ながら・・)AとBの定食のどちらかをコックに声だかに告げていた。そして、驚くべき事は更に続き、なんとこの店はにテイクアウトもやっていた。カウンターの隅に立ち注文した料理を待つ客や、自転車に乗ったままサッシ戸を少しだけ開けて、何食わぬ顔でやきそばなどを頼んでいくツワモノまで現れたのである。そして、あれよこれよという間に店内は繁盛店の活気に包まれてしまったのであった。

 宇都宮市が必死で取り組んでいる“餃子の街”造りになどにはてんで無関心な様子のこの店。おそらくそれなりの協会などにも未加入で、情報誌などにも取り上げられる事も皆無、ひたすらマイペースに自力と口コミだけで店を続けて来ている雰囲気が伝わる。物見遊山の客を寄せ付ける隙はまったくないが(笑)、頑固に地元に定着しているようである。

 まあ、つらつらと一件の店の様子を書き連ねたわけであるが、良くも悪くも多少の脚色の部分はあるにしろ、なんとも僕にとっては面白い体験であった。何ら断りを入れたわけではないので、店名、場所などは控えたいが、一つだけ場所のヒントを書かせてもらえれば、「パルコの裏の方」とだけ言っておきたい。

 そんなわけで、今後宇都宮へ行った時には、この店の更なる深層部を探るべく僕は通い続ける事になると思う。そして、あの唯一読み取る事の出来た、二つのランチメニューには何としても今後チャレンジしてみたい(ちなみに数ヶ月後、再び僕が訪れた時にも、このメニューは変化する様子もなく健在でしたあ(笑))。

 しかしながら、お願いだから少しは掃除したらどうでしょーかあ?!と店主に言ってみたい、今日この頃の僕なのであった。





(04.04.21)

K's Room

東京大田区バドミントンサークル



 

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