1999年7月28日 カスリーン公園で月食観望



埼玉県の北東を流れる利根川河川敷で、部分月食の観望をすることにしました。
今回の部分月食は、月が出てまもなく欠け始めるので、地平線近くに出来るだけ障害物が無いところが適していました。平日の宵に起こるので、自宅からさほど遠くないところで、夜半前には帰宅できるところとなると、移動半径は限られてしまいます。

カスリーン公園にある
カスリーン台風について説明板
そこで、以前からよく行っていた大利根町河川敷にあるカスリーン公園で見ることにしました。

カスリーン公園は、カスリーン台風によって利根川が決壊した場所に作られています。昭和22年9月15日に、ここから340mに渡り堤防が決壊したために、約60万人に被害をもたらした昭和史に残る災害で、その教訓として太く頑丈なスーパー堤防を建造すると共に、この場所を公園とし、カスリーン公園と名付けたそうです。利根川は昔から暴れ川で、栃木県の谷中村をつぶして藤岡遊水池を作った程ですから、遊水池の対岸かつ手前のこの地で決壊したのですから、かなりの被害を出したのでしょう。

そのような由来のカスリーン公園ですが、私がここに来るのは3年ぶりでした。昔はよくみんなでここに集まって、月食やら掩蔽やらを観望したのですが、百武彗星が春の星空に長く尾を伸ばしたとき、平日だったので遠出が出来ずに、近場でそこそこ空の良いところということで、ここに写真を撮りに来たのが最後でした。

久しぶりに来てみると、様子が随分変わっていました。昔は小さな公園だったのが、いつの間にか綺麗に整備されていました。カスリーン台風説明板石碑があり、植木が植えられ、屋根のあるベンチや東屋が増設され、水飲み場もありました。また、公衆トイレも建てられていました。一見普通の水洗トイレですが、説明の看板があり、排水を、バクテリアを通して綺麗にし再利用すると行った、循環式のトイレだそうです。もちろん、携帯電話もバリサンで使えます。ふと、重装備無しに気軽にキャンプできる設備がすべて整ってると、思ってしまいました。

ここがカスリーン公園。

公園は緑につつまれて、
テーブルやベンチも。
水洗式の公衆トイレも
設置されています。

天気は、雲が多いながらも、月の出る南東の方向には晴れ間が広がっていました。機材を車から取り出し組立始めました。今回のシステムは、ビクセンGPガイドパック望遠レンズという組み合わせで挑むことにしました。望遠レンズED300mmF4レンズ2倍テレコンバータをつなぎ、600mmF8にして撮影するだけの最軽量のシステムです。過去に屈折フローライトFC76の直焦点で皆既月食を何度も撮っており、FC76600mmF8であることから、300mm+2倍テレコンは同等の倍率と露出が得られます。となれば、屈折望遠鏡の直焦点に比べて望遠レンズの方が、組立や片づけが断然楽です。月食が終わったら、夜半前に帰って翌日は仕事となるので、出来るだけ簡単なシステムにすることにしました。

南東の薄雲の中から月が昇ってきました。

私と同じ埼玉県庁天文同好会(SPGAS)に所属する内山さんがやってきました。内山さんは高校の先生で、夏休みに入る前に生徒達に、この部分月食を見るよう宿題を出してきたそうです。生徒達に宿題を出すからには自分もきちんと写真を撮って、できれば地球の影が判るような写真合成をして生徒に見せたいとやってきました。内山さんの機材は、三鷹製GN170赤道儀に、屈折フローライトFC100F8で焦点距離が800mmとなるので、直焦点でちょうど良い大きさとなります。地図を出して、方位と月の出る方向を確認して、車の側で組み立てを始めました。それでは、私はその隣へと、なにしろ私の機材は片手で持てるので、並ぶように設置しました。

準備は完了。そういえばSPGAS鈴木君は、連続写真を撮るのに風景の良いところを見つけたと、朝霞市荒川土手に行っているのでした。彼もそろそろ準備が終わった頃かなと、携帯TELしてみようかと内山さんと話していると、鈴木君の方からTELがかかってきました。朝霞市の方もこちらと同じく、低空には薄雲があるものの、月食は見られそうとのこと。こちらは二人だけれど、鈴木君の方は一人で飽きてしまうので、以降、マメに状況をTELし合うことにしました。

太陽も沈んで薄暗くなり、そろそろ月が昇ってくる頃。と、遙か彼方にある東武日光線の鉄橋の脇、地平線から赤い月が昇ってきました。ちょうど電車が走ってきたので、早速内山さんは月と電車を一緒に撮るんだと、試し撮りを始めました。私もビール片手にお月様と電車を観望。予報では19時20分頃部分食が始まり、20時半過ぎ40パーセントまで欠け、21時45分頃終わります。片づけて帰るのが22時半として逆算すると、20時までお月見をしながらビールを飲んで、その後酔いを醒ますといった計画を立てていました。撮影の方は、のんびりと20分おきに露出を3段階変えて撮っていくことにしました。

今回の私の機材はGP赤道儀に
ED300mm望遠レンズ+テレコン。
内山さんはGN赤道儀に
FC100で直焦点撮影。
月食撮影の合間に、
二人で記念撮影。


部分月食が始まり、月が少しずつ欠け始めました。私自身、月食を見るのは久しぶりでした。でも、過程が長いのでだんだん見るのも飽きてきました。そこで、時間も持て余してしまっているので、星仲間は今頃何しているのだろうか、携帯のアドレス帳を頼りに電話あそびをすることにしました。

まずは近くに住む岡安さんの所に。「月食もう始まってますよ。利根川に来ないんですか」という一言にあわてて反応。「今から行く」と、普段は星見にほとんど参加することのない岡安さんだが、車ですぐのところで宴会をしていることを知り、こちらに向かった。30分もすると、機材は持たずに、代わりにバナナやお菓子を持って友人と乱入してきた。小山星の会山本さんにTELすると、まだ仕事中だった。小山からすぐの利根川で観望会をしていることを告げたが、「家に帰ってから見る」と4月に結婚したばかりの新婚では、月食よりも家の方が恋しいらしい。SPGAS筒井君の携帯にかけると通じなかったので、自宅にかけてみた。奥さんが出たので、月食が始まっていることを知らせる。ご主人は泊まりで研修中とのこと、何だ残念と思っていると、しばらくして筒井君本人からTELがかかってきた。「何か用ですか」との声に、「月食見ているかい」というと「見てますよ」と、酔っぱらい声が帰ってきた。昼間の研修が終わって、仲間と飲んでいるらしい。「僕も行きたかったんですが、研修中なんで」と言いつつ、結構彼の方も盛り上がっているらしかった。同じくSPGAS武内さんの所にTELすると、ご主人は不在で、奥さんが電話に出た。早速自宅から月食進行中である月を確認しましたと。携帯のアドレス帳を調べていると、大学の先輩渡辺さんの携帯のTELもありました。渡辺さんは、小山市在住ですが久喜で高校の先生をしているので、近くにいるかもとTELしてみました。電話は通じず、留守電に後輩らしい謎のメッセージを入れておきました。合間には、鈴木君の方にもTEL。「晴れて良かった」と、約30キロ隔てた荒川とこちら利根川で、TELを通して祝杯を挙げました。


星見にほとんど参加しない岡安さんも、
今回は食べ物を持って友人と乱入。
そんなふうにお月様を見ながら、みんなで電話あそびをしているうちに、月食は終わってしまいました。月食が終わったあとも雑談で盛り上がっていたのですが、そろそろ帰ろうと、22時頃から撤収作業を開始。雑談しながらなので、片づけが全然進まない。そんなおりに、先ほど留守TELにメッセージを入れておいた渡辺さんから、TELがかかってきました。渡辺さんは、久喜市月食観望のボランティアをしていたそうです。また次の機会に星見に誘うことを約束して、電話を切りました。

22時半過ぎ、片づけも済んだので、帰路に着きました。今晩集まったのは総勢5名。まあ、ちょっと少なめでしたが、携帯で仲間と話しながらの楽しい月食観望会でした。


1999/08/23


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