骨髄ドナー体験記 (その1 適合通知)

◆1 それは、ひとつの大きな封筒からはじまった

day-175日。仕事から帰宅するとピンク色の大きな封筒が届いていた。骨髄移植推進財団からのものだった。
 既にドナー登録から4〜5年が経過しており、ともすれば登録していたことさえ忘れがちであったが、その時は「もしや」と思った。
当時私は献血を定期的に行っており、その縁でYAHOOの掲示板「成分献血にはまっています」というトピックスに出入りしていて、ちょうどその頃、骨髄を提供した人がいて話題になっていたからだ。
果たしてそれは、初期コーディネートのお知らせ。
意思確認のアンケート用紙とともに「骨髄提供者になられる方へのご説明書」が入っていた。説明書に従い、このときから献血を自粛した。

◆2 家族の同意
ドナーになるためには大まかに言って三つの条件がある。
1.20歳以上であること
2.健康であると
3.家族の同意が得られていること
当然自分はこの条件を満たしていると思っていた。
しかし、初期コーディネートのお知らせが届いた当日、母が反対の意を表明したのだ。
4〜5年前、骨髄バンクに登録する時には特に反対していなかったのに。
理由は「骨髄提供者になられる方へのご説明書」に書かれていた事故例だ。確率は低いとはいえ、ドナーの死亡事故や後遺症が報告されていた。
 包み隠さず情報を公開するのは大切なことだが、逆にそれが母の不安をあおっているようだった。
それを見てからというもの、過去に下半身不随になったり、死亡した人がいるなどと言っている。「〜ご説明書」にはそんな事例は記載されていないのに、母の思い込みだ。
とりあえず、骨髄移植の必要性を解ってもらうために、レンタルビデオで「プロジェクトX」の骨髄バンク設立のものを借りてきて、母親に見せた。
納得はしていないが、同意すると言ってくれた。

◆3 禁パ禁煙
day-168日。コーディネーターさんが決まった。Mさんとおっしゃる。
そしてこの日から禁煙を開始した。
22歳から吸い始めてから約10年目、当時はセーラムスーパーライト(3mg)を3日で2箱くらいのペースで吸っていた。一時は7mgのものを吸っていたのだが、たまに肺に違和感を覚えることがあった(職場の定期健診では異常なし)ので軽いタバコに変えていて、禁煙を考えてはじめていた頃だった。
そこへドナーの話。当然健康への意識も深まり、さらに「骨髄提供者になられる方へのご説明書」にも「喫煙は控えください」と書かれていたので、いい機会なので禁煙を始めた。
禁煙。確かにはじめはつらかった。
ちょうど歓送迎会の時期。酒を飲みながら隣でぷかぷか吸っていると、こちらまで吸いたくなってくる。禁煙パイポを2本噛み潰した。
そして、こちらは約15年間はまっていたパチンコもやめることにする。隣でタバコをぷかぷかされて、さらに当たりが来ないとなれば、もうイライラも最高潮!!
パチンコを止めようと思ってから禁断症状が出た。ある意味、禁煙よりつらかったかも。


◆4 海好き
 「成分献血にはまっています」というトピックスのYAHOOの掲示板には骨髄バンクで活動されている方がいた。その方に母親を説得するにはどうしたらいいか相談してみたところ、”まずは説得ではなく、正しい情報を提供する事から始めましょう。
それには患者さんやドナーさんの体験談が有効かと存じます。”
という回答をいただき、海好きをというサイトを紹介された。
 このサイトは血液疾患に関する検索サイトで、患者さんのホームページだけでなく医療機関や先輩ドナーのホームページまで検索できて非常に役立った。
そして、このサイトで患者さんとの交流がはじまるとは、そのときは考えてもいなかった。

◆5 大いなる誤解
海好きで調べていくうちに、何も知らないのは母だけでなく自分もだということに気づいた。血液疾患にはいろいろなタイプがあることや、骨髄移植のメリット・デメリット、患者さんの経済的負担などである。

誤解その1 白血病は不治の病で骨髄移植は特効薬
 これは、マンガの読みすぎか?白血病は薬などでは治らないと思っていた。
しかし、渡辺謙さんのように化学療法だけで寛解し、良好な予後を維持している方も大勢いる。その反対に、移植をしても、再発をしてしまったり、移植の副作用(GHVD)で亡くなる方もいることを知った。
患者さんは相当の覚悟で移植を決断する。そう、移植は「諸刃の剣」なのだ。

誤解その2 病状のよくない患者さんに移植をする
 骨髄移植は、白血病を発病し治療の決め手がない患者さんに対して行うものだと思っていた。
しかし、発病中で体力の弱っている時にはさらに体に負担がかかる移植は、よっぽどでないとしないということを知った。まずは、化学療法で寛解へ持っていき、再発の恐れがある場合に移植をする。(寛解というコトバも海好きで知った)
患者さんは寛解状態で、健康になったように感じられるときに、移植をするのだ。

誤解その3 ドナーの入院費は骨髄移植財団もち
 ドナーには経済的負担はほとんどない。交通費なども全額財団から出るし、逆に入院準備金が支給されるくらいだ。だから、ドナーの入院費は骨髄移植推進財団もちだと思っていた。
しかし。ドナーの入院費用は患者さんもちだった。それに、ドナーが個室に入った時の差額ベッド代までも患者負担だ。いくら健康保険が支給されるとはいえ、差額ベッド代までは出ない。「地獄の沙汰も金次第」ではないが、移植を受けるには莫大な費用がかかる。