この10年を振り返って
−地獄めぐりの事例報告供覧−
・・・っと、タイトルを書いたものの、あまりになまなましくてしらふではちょっと書きにくい。
確かに「世の中、地獄めぐり」をそのまま地でいった(正確には過去形ではない!)この10年
であるが、その前が天国であったわけではないし、自慢するわけではないがもっとひどい「究極の地獄」を
体験した私としては、世間的に「地獄」といってもそれを客観的に見ながらある意味でそれを楽しむ余裕
さえあると言えば言えない事もない。特にこの10年に関しては、主に仕事にかかわる部分が大きいので
「どいつもこいつも大馬鹿野郎」な世界における限りなく馬鹿馬鹿しい出来事が中心になるわけであるが
所詮人間なんて愚かな生き物だよなんて妙に悟ってしまっては面白くない。といって、固有名詞丸出しで
赤裸々に事実だと思い込んでいることを書き始めると、そりゃ単なる中傷誹謗の類となんら変わることは
ない。読む者にとっては面白いかもしれないが、良い子のおじさんは(しがないサラリーマンは)そんなこと
はやめといた方がいいだろう。ということで、はじめっから腰砕けです。ゴシップ満載を期待してこのページ
を開かれた方にはお悔み申し上げます。
第1部 買収したての英国子会社への駐在
買収したてのわけのわからない海外の子会社なんかに何で行ったのかって?
そりゃ「現状に絶望していた」から新天地を求めて行ったに決まってるじゃない。
しかし、現実はそんな甘い期待を満足するようなものであるはずはなかったことは、言うまでもない。
買収の過程においてはいろいろなことがあったと思う。結果は、「よってたかってだまされた」と言う表現が
一番正確だと思う。帰国する前に当時仲良くなっていた現地の社員から買収前後の話をいくつか聞いた。
現地銀行の不正融資が発覚して実質倒産状態に陥っていたものを買収してしまったらしい。買収にあたっ
ては日本の某大手銀行の現地支店が仲介し多額の仲介料をとっていたはずだ。知らないはずはあるまい。
他にもいろんな話があるが、書き出すと固有名詞やら罵声の類が飛び交いそうなので、やめておく。
それでは、私にとってそれほど悪い体験だったのかというと、確かにしんどかった部分も多いが、結果として
私は自分のミッションを全うすることが出来たということと、異文化の中で研究者・技術者として通用したという
ことで、時間がたつほど悪い思い出ではなくなってきているし、実に貴重な経験が出来たと思っている。
悪くはなかったことをあえて書いてみよう。
1.英国の風土、文化に接することが出来たこと
他のページでいろいろ書いているので繰り返さないが、異文化を内側から垣間見ることは知的好奇心を
大いに刺激してくれる。そりゃ、大変でしたよ。最初の1年は、家族も含めてサバイバルに精一杯。そのうち
に自然の美しさ、町並みの美しさ、住人の感性なんてものがだんだん見えてくる。ビールが主食でそれ以外は
あまり食べ物にはこだわらないから、できたのかな。
たとえばこれは、近所の公園の木蓮の大木です。薄紫の花を見事に一面に咲かせています。満開の染井吉野
に勝るとも劣らずといったところです。こんな綺麗な木蓮があったんだ、とか思いながら放心して眺めていると、
何かしら心がなごんできます。
2.初めて事務所で個室を与えられたこと
日本では普通の民間会社では重役さんにならないと個室は与えられませんね。英国の会社ではマネージャー
には個室が与えられるようです。かく申す私も Senior Adviser, R&D なんて肩書きをもらっていたために、夢の
個室をゲットしたのです。しかし、個室と言ってもピンからキリ、まあ当然ながら私のはキリの類でした。廊下に
面してドアと窓があり、動物園の檻みたいなもんですわ。それで、つい無意識にデスクの上の廊下側に書類を
積み上げ、ごらんの通りとなったのです。書類で城壁を築いていたのですね。しかし、閉鎖的になってはいかん
と思っていたためか、ドアは常に開けっ放しにしていました。
3.帰国前の歓送会
何をするでもなく、暇つぶしをしていても特にお咎めがあるわけでもない駐在員生活。しかし貧乏性の私は
まじめに技術をやっちゃいました。まあ、そこにあるはずだった技術、しかもなければ困る技術なのに何と
見事になかった技術(それを見極めるまでに1年以上かかっちゃいましたが)を自分で築き上げていったの
です。はじめは誰からも相手にはされなかったのですが、お客さんに初めて認められ、その後社内でも認知
され、ようやく肩書きに恥ずかしくないようになりました。そうこうしている内に会社の事情で帰国することに
なりました。現地の人が入れ替わり立ち代りディナーに誘ってくれたり、最後の勤務日に職場で全員の前で
スピーチしたり(私のスピーチに涙した人がいたとか)、記念品をもらったり(ひとつは下の写真に写っていま
す。もうひとつは・・・?)して、現地の職員の行きつけのパブで歓送会となりました。下の写真がそのときの
ものですが、私がパブで撮った数少ない写真です。
テーブルの上に金属のジョッキがありますね。これがその日にいただいたプレゼントで(ネーム入りですよ!)、
早速パブにマイジョッキとして持ち込んで、使用しています。3人が持っているのがビター入りのパイントグラス
です。ビールの色と泡の少なさに注目。
しばらくたった後の隣のテーブルです。皆さん、テーブルの上に何も「おつまみ」がないのにお気づきに
なりましたか?そう、パブでは何も食べないでビールだけを飲むのです。食事をする部屋はまた別にあり
ます。また食事の時にはビールは飲みません。たいていワインです。
さて、最終勤務日に写真に写っているジョッキと共にもうひとつプレゼントをいただきました。それは、
ビール用の特殊なグラスです。長さが1m以上あり、ラッパのような形をしています。英国のパブでは
これを飾っているお店があるようです。特別な目的(1パイントのビールの一気飲み?)で使うグラスです
が飲み方が難しく、そのまま飲むと顔にばしゃっとかかるので、回転させながら飲むそうです。現在、帰国
するときに厳重に梱包したままですので、今度引越しした時にでも引っ張り出して写真をお目にかけること
にいたしましょう。乞うご期待。でも何でプレゼントはビールを飲む道具ばかりなのでしょう?
さて、お待ちかね、スペシャルグラスの供覧です。