05’3月13日 福岡 Zepp Fukuoka
欧州でビッグセールスを記録しているNIGTWISHが、こともあろうに前座でしかも福岡に来る。これは由々しき事態である。来日決定の知らせまで、私はその音楽性に触れたことはほとんど無かったが、「ものは試しに」的に買った旧譜「WISHMASTER」にハマってしまった。本来なら八槌の付き添いのはずが、彼女を押し退けての完全臨戦態勢。そしてこのライヴレポートの運びとあいなったのである。
個人的には実に久方振りのライヴである。「久方の、光のどけき、春の夜に」北欧の方々はいらっしゃったが、春とは名ばかり。NIGHTWISHが冬の精を北欧から連れてきたのか、会場周辺には雪が舞っていた。例年、この時期福岡には雪は降りません。一緒に来た南米のANGRA御一行様には辛すぎたのでは?!
会場に入り、まずステージを観察する。ステージ中央の、黒のツーバスドラムセットはステンレスパイプで固定されたTamaのラックタイプ。ステージ後方には最新アルバム「ONCE」のジャケットがバックドロップとして誂えてある。向かって右側、ギターサイドには4発スピーカーのMarshallが2段積み。左側のベースアンプは引っ込みすぎてよく見えない。ステージ左端、前から2列目に陣取った私の目の前にはKORGのキーボードがスタンドに2段セットされ、その横にもキーボードが立て掛けられていた(?!)。このバンドのキーパーソン・Tuomasが、ここに立つわけだ。会場にはMEGADETHの新譜とおぼしき曲が流れ続けていた。
会場暗転。オープニングSEは映画のサウンドトラックを使用したそうだが、これが実にNIGHTWISHぽい、シンフォニックで重厚なインストだった。当日はてっきりバンドのオリジナルだと思っていた。ステージ左右に備えられたライティングがサーボシステムで動き、青いライトを会場に投げ掛ける。ついにオープニング曲が始まる。セオリー通りの新譜1曲目だが、残念ながらイントロは聴き取りにくい。これはバンドではなくPA側の責任だろうが、ここを除けばライヴでの再現力は百点満点といえる、すさまじい演奏力と音質へのこだわりだ。フェイクなんてするはずの無いTarjaのヴォーカルには、不安を感じさせる要素がまるで無い。すごい、完璧だ。彼女のヴォーカルが入って以降は、歌・演奏とも怪しいところは全く無くなった。これが、ヨーロッパで高い人気を誇るバンドの実力というわけか。
激情的にキーを叩くTuomasのアグレッションから目が離せないが、元気に動き回るMarcoが何度も視界を横切る。Emppuもそれに続く。イニシャルWとヘッドに入ったベースをピック弾きするMarcoは、アルバムのように顎髭を結んではなかったけど、しっかり2つに分かれていた。すでに形がついている(笑)。
ハンドマイクを使うTarjaの真紅のお召物は、振袖のように袖が長く下がっている。日本の着物を意識したものか?基本位置は向かって左から、Tuomas、Marco、Tarja、Emppu。後方のドラムのJukkaは私の位置からはほとんど見えず、辛うじて頭にバンダナを巻いているのが確認できるだけであった。ベーシスト、ギタリストはワイヤレスシステムで動きまわるが、コーラスをしない、最も自由度のあるEmppuが右に左に来てアピールする。彼はピック撒きのファンサービスを大判振る舞い。足元に落ちて、行方の判らないピックに気を取られ、ライヴに集中出来ないオーディエンスがあちらこちらに。
黒い長袖襟付シャツのEmppuは、小柄で実にキュート。ホントに「大きなギターを抱えて…」って感じである。私もバンドやってた時は、ステージで彼のように見えたのかな、と自分の姿を重ねてみたり。しかし、どっこい、彼のギター、ヘヴィーなバッキングこそがNIGHTWISHのHMサウンドの要となっている。地味だけど、彼がいなけりゃ、NIGHTWISHはHMとは呼べないのである。Emppuは曲によって、2本のギターを使い分けているようだ。
迷彩柄のTシャツを着たMarcoは“Planet Hell”で、早くもその脅威のヴォーカルを披露。歌も、そして曲中のナレーションもこなす。
顎髭があって、アイラインの入ったTuomasはそれゆえ、映画「パイレーツオブカリビアン」のジョニー・デップみたい。昔のアルバムジャケットではナルシスっぽい優男という印象だった彼だが、その予想に反して、悪っぽい「メタル兄貴」な風体で、かなり激しくヘッドバンギングする。その度、腰から下がったチェーンが揺れる。彼のリストバンドには漢字で「愛」と書かれていた。文字については謎。
5曲目の“The Phantom 〜”では、Tarjaの超高音とMarcoの高叫音がラストを締める。Tarjaはここで一旦ステージを降りて、残ったメンバーでMEGADETHのカヴァーが始まった。これには客席から疑問の声も聞こえた。カヴァーじゃなく、もっとNIGHTWISHの曲を聴きたいということだろうか。音があまり詰め込まれていないこの曲で、スネアーの抜けは最高に良かった。“Symphony…”は資料を調べていて今さらに驚いたが、'92年の作品だった。時の経つのは早い。私はこの曲リアルタイムなので、「随分新し目のものをカヴァーするんだな、メジャーだしな…」と軽く思っていたが、周りにいる若い子にとっては「10年以上前のメタルクラシックス」という重みがあるのだろう。MEGADETHの音楽性自体知らんのがほとんどかもしれん。
曲が終わると、衣装を替えたTarjaがステージに戻ってきた。見た目は黒なのだが、光の具合によってキラキラと輝くダークレッドのドレス。ライヴに最適といえる、徐々に盛り上がるイントロの“Bless The Child”で再び、会場はバンドの底知れぬ実力を見せつけられ、Tarjaの天界までに響き渡る歌声に心奪われる。バンドはその真価を発揮するのである。キーボードスタンドの下には筒状のボトル受けがあり、そこに収まっているワインボトルを度々取り、Tuomasは何度もあおる。ボトルを垂直に上げては、ワインを流し込むのである。
“Wishmaster”を演奏し終わると、演奏陣はステージを去り、Tarjaが一人残された。彼女にとって最大の見せ場となる、母国語の“Kuolema …”が始まる。天部の女神が会場に舞い降りたのであろうか?!技術に裏打ちされた彼女の後ろに大きく伎芸天が存在する。いや、実は彼女自身が伎芸天に相違無い、そんな錯覚を抱かせるほどの神々しさである。
メンバーが戻ってきてからはヘヴィめの“Slaying The Dreamer”。Tuomasは上着を脱いで、ノースリーブの黒シャツになっていた。本編ラストとなった“Nemo”では、ステージ左に来たEmppuがTuomasからワインを貰い、呑んだ後はそばにあったタオルを水平にした腕に掛け、ソムリエ宜しく畏まってボトルを戻す。Emppuはユーモアがあって、実に楽しい。その後、ワインの返礼としてEmppuがステージ袖から缶ビールを持ってきた。この二人のカラミは見ていて、ホントにほのぼのとさせてくれる。
以下、アンコール。三度目のTarjaのお召し替え、と言うか上着を脱いで、ノースリーブで胸の大きく開いた服に。男性として、ちと目のやり場に困ります。インストパートではドラムセットの前で、妖艶に舞うTarja。曲が終わってMarcoがMCを取り、フィンランド産というお酒をメンバーで回し呑みが始まった。銘々がアオると、お酒の席のイッキ宜しく手拍子が客席から沸き起こる。「これがフィンランド流」というMarcoは最後にTarjaを指名。彼女は断わり続けたが、ついには軽く呑み、客席から歓声が上がった。
今のバンドの真骨頂とも言える佳曲“Wish I Had An Angel”で締めくくる。Tarjaの歌はそれ自体確かに素晴しいが、それに引けを取らないMarcoの荒々しい歌が付加されてこそ相生となり、彼等にしか作れない音楽性がNIGHTWISHを唯一無二の存在へと導く。演奏を終えた5人のメンバーが手をつなぎ、2度深くお辞儀をして挨拶し、ステージを去った。
自分も歌ったが、周りでもよく歌声が聞かれ、NIGHTWISHファンが多いことを実感させた。前座にはまるで無関心かと心配していたが、音楽的にフリーで、良いと思ったものはきちっと反応する、そんな九州という土壌の良さがにじみ出ていた。そして「オイ×4」の掛け声がやたら沸き起こり、若衆の「何が何でも盛り上がりたい」一念が感じられ、皆ノリノリでライヴを楽しんでいる良い雰囲気であった。
終わってみれば、自分の声はガラガラ、首も目っ茶痛い。やっぱりボロボロになってしまった。でも、完全燃焼で気分好し!(文責:新地昭彦)