オーディオ スローライフのすすめ
  

 何でもインスタントで済ませるのでなく、ゆっくりと本当の豊かさを求める生活が見直されている。
例えば「食」についても、ファーストフードに対してスローフード…ハンバーガーを立ったまま頬ばるのではなく、料理人が手間ひまかけた一品一品をゆっくりと味わおう、家庭でも電子レンジ料理でなく、お気に入りの食材でじっくりと調理しよう という動きである。
 音楽とかオーディオという趣味の世界では、これはもっと大切なこと…「スローライフ」こそ「本物」に通じる途なのである。

 LPレコードの時代、音楽を聴くことは否応なしに、もっとゆっくりとしていた。アンプを点けて温まるのを待つ…盤をクリーナーで磨いてターンテーブルに乗せる…無音溝をなぞる針音が演奏場の暗騒音のごとき気配を醸して、おもむろに演奏が始まる…ゆったりとした絶妙のタイミングだった。
 いま、CDは操作の速さを競うかのように、無音からいきなり演奏が飛び出す。SACD(スーパーオーディオCD)の1号機が発売された時、高機能だが 複雑なメカのために音が出るまで数秒かかる点を関係者は気にしていた。しかし、この「間」が音楽を聴く気分を高めると好評だったのは皮肉である。それなら普通のCDでも、演奏前の気配を醸しながら、ゆっくりと演奏が始まる様なリレー回路を組み込んだ製品なんてのが発売されてもよさそうだ。
 手間いらずのCD時代だが、時には埃や指紋くらいは 念入りに拭いてやりたい…眼鏡用ハイテククロスで拭くだけでも効果がある。CDプレイヤーは汚れで読み取れない信号があっても、前後の信号から計算して音を補正するから、一見、トラブルなく再生されたと思いがちだが、このために余計な回路が働き、余分な電気が流れる…これが確実に再生音の純度を落しているのである。

 インスタントに音を良くしようという製品は随分ある。
室内音響の不備まで、手軽に、電気的に補正しようと、グラフィックイコライザーやらサウンドEQやらという回路が普及型コンポにまで付いた時期があった。部屋に低音が溜まる、声が引っ込む、高音が寂しい等などに、その帯域を上げ下げして補正する訳だが、悪い味に化学調味料をふりかけて直そうという様なもので余りうまくはいかなかった。
 もしコンポがうまく鳴っても、この部屋で会話したり 楽器を弾く時はどうする?高音域を持ち上げて喋れという訳にもいくまい。やはり部屋の改善策は 吸音材と反射材の役割をする家具やインテリア用品をバランスよく配置して、じっくりと手間をかけて調整するのが基本である。最近は、マイナスイオンを発生させたり、超低周波で電磁波退治するという高度なルーム・アクセサリーが発売されているが、まず根本を整えないと真価は発揮できない。
 機器の振動の害を防ぐインシュレイターの類いは最も種類が多いアクセサリーである。しかし振動対策の根本は、振動に強い台に置くこと…あれこれとインシュレイターを揃える費用で、まず とことん頑丈な台を買ってきて、しっかりとセッティングすることを薦める。ガタつけば コインを挟んで安定させる…1円玉より10円玉、100円玉の方が音が良いという。材質の差だから ケチらないでおこう。
 装置自体の使いこなしについてはゴマンとあるので、いつか別項にまとめたい…いずれにしろ安直に急ぐのではなく、根本的にじっくりとスローライフの精神で望みたい。

 さて最後は、年末大掃除を終えたら、ゆっくりとオーディオ装置のクリーニングに取り掛かろう。
大まかな埃落しが済んだら、すべてのピンコードを抜いて接点のクリーニング…先のハイテククロスで力を入れてキュッキュッと磨く。汚れがひどければ、ガーセに無水アルコールを染み込ませて磨く。ピンジャックの穴はマッチ棒やつま楊枝を突っ込んで磨く。
電源ソケットも忘れずに磨く…壁コンセントは竹べら等の絶縁体をハイテククロスやガーセで包んで、接触部分に差し込んで磨く。
スピーカーケーブルは磨くより切る方が早い…古い先端を切り取って、ついでに余分な長さも切り詰めて、コードを剥いて新しい導線を出すのが簡単で、効果的である。但し、左右chのコードの長さを揃えておかないと、また 余ったコードをぐるぐる巻きにしたりすると悪影響が出るのでご注意。
 地味な作業だが、これだけで信じられないくらい音の純度が上がるはずだ…どうか良い音で新春をお迎えください。



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