ひんやりと肌をなでる
朝の匂いに目覚めて
夏がひそかに老いようとしているのを知る

この朝の秋に岳彦は
満ち溢れるエネルギーを持て余すように
タオルケットを跳ね飛ばし
夜の間を転げ転げたその果てに
大の字なりに眠っている

長いまつげ、きっと結んだ口
寝巻きからはみ出た太い手足
その小さな身体で
天下を圧するような大らかな寝姿

それに比べて
眠るお前のなんという稚なさ
抱え込んだ大きな枕
その上に傾けた小造りの顔
半ば開いた口から前歯がのぞく
レエスの縁取りした
花模様の短い夜着

眠るおまえと岳彦を見比べて
そのちぐはぐに
思わず可笑しさがこみ上げる
それでもやっぱり
おまえは岳彦の母
さらにいま、おまえの内部に
新しい生命が宿っている
その不思議さ

なにか夢の続きのような
この非現実感が
幸せというものか

突然、時計の音が鳴り響く
朝だ くらしの朝がきた
岳彦がわめき
寝ぼけ眼でおまえが叱る
さあ これから一日が始まるのだ

1969.8.25

70年へ進む   玉手箱目次へ    
TOPに戻る