海の花びら

小さな紙包みをひらいて
あなたはいう
「これが私たちの家族」と
夏の渚の思い出をのせて
テーブルの上に潮の香を伝える
海の花びらは大小5枚。
「これが、きみ」と
中くらいの一枚を手にとれば
うなずくあなた。
そうか、それならば
この大きい方がぼくだね
あなたの目がいたずらっぽく笑う。

そのひとみの輝きは
3月の美術館に午後を過ごしたあの日と変らずとも
そこに宿る想いの深さに
ぼくは6ヶ月の時の堆積を思う。

初夏のある日
ふと出合ったあなたとぼく。
それが運命の出会いだったと追想すれば
ぼくたちの運命の扉を打つ音の
なんとやさしく、素朴だったことか。
だが、その音に扉を開いたのは
他の誰でもなく
あなたとぼくだ。
二人だけの道に歩み出して
ぼくのあなたへの想いは限りなく
あなたの愛がぼくを変貌させる。

みすずかる信濃の国の
透き通る朝の大気に
陽光きらめく近江の湖に
ふるさとの山の緑と清冽な谷の流れに
心を浸したあなたとぼくは
Eternal Loveを染め上げたのだ。

その色は日々あざやかに
ぼくたちと共にある。

燃え盛る夏に君臨した太陽は
南の国への旅立ちを用意し
豊穣の秋はその清澄な訪れの便りを
ひそやかな夜気にのせて送るきょう
あなたは二十一歳になった。
讃えようHappy Birthday
近づく首途を輝かしく画するこの日
あなたの二十一歳のいのちを
絢爛と花咲かせるために
ぼくのなすべき役割への思いが
強烈に思考を支配する。

あなたが思いをこめた5枚の花びらを
手に乗せて、ぼくはずっしりと
その重みを心に受け止める
そして、ぼくはそっと目をとじる
たとえ、富に遠く名は無くとも
あなたと共に歩む長い道程を
精一杯に明るく美しく
生きることを願って。

1966.8.25

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