ふたりのともしび

ぼくたちのふるさとには
いつも、すぐそこに
街を北東西三方を囲む
山がある

通る道を日々かえながら
毎日、山を眺めて学校へ通った
寝床で本を読んだのに
目が悪くならなかったのは
山を見たおかげ
と、あなたは言う

山を眺めながら歩む、ランドセルの
小さな女の子を想像すると
微笑ましくて、ちょっと
切なくなる

その子は
山を眺めながら
何を思っていたんだろう

そのころ、ぼくは
校舎三階の窓から
北山連山をのぞみ、
このテストが終わったら
あそこに行ってみたい、と思っていた

陽を一杯に浴びた
やわらかな山肌が
とても魅力的だった

このとき
だれかが、この山を
同じように眺めているなんて
ちっとも気づかないままで

ぼくたちは
同じとき、同じ山を
眺めていたんだよ
きっと

夏には、その山のうち
五山に火が燃える
盂蘭盆に迎えた
精霊を送る火だ

ぼくは、やはり
校舎の屋上から
送り火を眺めた。
あなたは、家の屋根から
両親と眺めていた

あのころは
そんな風にして
五山の火がみんな見えた

ふたりは、同じように
お互いが、この火を
眺めているなんて
気づかないでいたんだね

でも、それが
運命
(さだめ)というもの
同じ山、同じ火を
見た二人は
十数年後に出会い
もう離れることはなかった

それなのに
五山の火を、二人揃って
眺めるのに、なんと
四十年近い月日が流れた

とうとう、二人は
並んで大文字を眺めた
むかしむかしと
ちっとも変らない
火が燃える

過ぎ去った歳月は
煙と消えて
むかしのままに火が燃える

ぼくたちも
あのころのまま
ちっとも変らない
そんな二人が
赤々と燃える火を
いまは一緒に
眺めていた

小さな女の子と少年が
不思議の糸に結ばれて
やがて出会い
共に生き
これからを想う

その長い連鎖が
燃え盛る
この火の中に
浮かび出る

深沈と深まる
漆黒の夜の中に
くっきりと、いつまでも
火が燃える

それは
二人のいのち
年々新たな
永久の明かり
はじめて
二人で見た
美しいともしび

2004.8.25

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