智惠子の空の下に

あなたは箕輪へ行きたいという
そうだ、箕輪へ行きましょう
あの箕輪へ
でも、知っていますか
あなたは知っているでしょうか
箕輪がどこにあるかを

それは、みちのく
あの遠い空
智惠子が
ほんとの空だと言った
山の上に毎日出ている
あの青い空の下

「あれが阿多多羅山
 あの光るのが阿武隈川」
安達ケ原の樹下の二人が
遠く眺めた
あの山の峰つづき
箕輪山の麓だということを

冬の初めの野山の中に
「あなたと二人静かに燃えて
 手を組んでゐるよろこびを」
謳い上げた詩人のように
ぼくも、あなたと二人
手を組んで、初秋の箕輪山へ

登れば間近かに
あれが安達太良山。
振り返れば、あの懐かしい
吾妻山。覚えていますか
もう遠くなった夏の日を
二人で歩いたあの山を

晴天を祈りましょう
炎暑が去って、大気が澄むことを
祈りましょう
箕輪山から、あれが磐梯山
あの光るのが猪苗代湖
そして、御覧なさい。もっと近くを

あの煌く一群を
磐梯山の北に群れる
小さな湖たちを。
ここからはただ煌きだけを
見出すだけの、その実
五色に彩られた湖たちを

忘れようはずもない
あれから三十五年を経ても
ぼくたちの生活が
そこから始まった
あの日、二人で眺めた
深い秋の日の陽光の色

遠い、みちのくの
智惠子のほんとの 青空の下で
ぼくたちは あの日に
帰るのです。
あれが安達太良山
あれは磐梯山

箕輪は そんなところです
箕輪へ行きましょう
箕輪山に 登りましょう
遠い日を 遥かに想うことが
さらに遠い未来へ
ぼくたちを誘うでしょう

さあ、旅立ちましょう 箕輪へと

2001.8.25

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