平成11年(1999)


半吉や籤結ぶ枝冬芽あり


末子幼少時、交通事故で頭蓋骨折
事故遥か生き継ぎし娘の成人日


一月十四日満六十二歳。四十年間の勤めを了ふ
断固けふネクタイ捨てむ春陽ざし


職去れば利害なき仲水温む


わが日々は余生にあらず春の嶺


春スキー名利なき身の天翔くる


極地にも授乳ありけり仔海豹


我が庭に鳥影動き花便り


絢爛は限りのいのち花の塵


飛花あまた黒き石垣染めて雨


前川老オペ
傘寿過ぐ花見は心臓手術了へ


初筍やしがらみ残す京の土


慈緑庵・神奈川句会
春陰や先達の座の端にをり


乙女像穀雨にぬれて土黒し


春陰や鳥の声降る滋緑庵


長子婚礼三句
巣立つ日や白きブーケのひととあり


結び葉やけふ花嫁と義父の縁


立葵上司を招ばぬ子の華燭


梅雨冷えや栄華も是空時の手に


青白磁答へ無きまま雨季に入る


英連邦墓地
英兵ら土に還へりて蝉の声


将兵の奥津城小さき梅雨の明け


とつくにに果つる二十歳や夏燕


夏落葉大義は常に個を滅す


風通る幼子去りし夏座敷


空き檻の増えし旧園青葉照る


南シナ海クルーズ
珊瑚礁カヌー軽ろきを妻と漕ぎ


庫裏のかげ図鑑のままの苔の花


帰省拒みベトナム訪ひぬ吾娘二十歳


避暑楽し蓼科山に嫁も来て


食虫草夏蝶とらへ静かなり


英国旅行三句
テムズ霧大円飛行経し夕べ


をとめ子の旅嚢紛れて牧は秋


秋風裡空仰ぐ村日食す


受講せし作品の舞台「嵐が丘」を訪ふ
學成らずヒース染む丘野分たつ


スコットランド二句
新郎はキルトの華燭秋古城


鉄路行くスコットランドは花野晴れ


なほ山に吾あり手術(オペ)より秋三度(みたび)


登頂了ふ三伏竜胆見ぬままに


山巓に時過ぐ気配あきつ飛ぶ


標高差二千の下山秋水鳴る


妻のジャム紅玉の色一二片


枝垂れてももみずる桜老いは斯く


散る枯葉時も降り積む藁の屋根


薄暮なほ稲扱く人よ遠き日よ


城暮色石坂下る足袋白し


小春日や総帆展開日本丸


縮帆や冬空高く足綱(ロープ)踏み


山茶花の紅に陽だまり港見ゆ


霧積温泉
木菟(づく)の声峡(かい)のぬる湯を出でかねて


遭難碑古りて耐ふるになほ吹雪く


ミレニアム
冬講座光源氏は老いぬまま


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