平成23年(2011)上半期


走水詣わが新年の恙(つつが)無く

(ゆずりは)や家系図製す息不惑

煮凝りや内孫無しに年古りぬ

横手山頂
樹氷群煌きを描く朝ひとり

保育園
なほ泣く子朝のお別れ梅一輪

妻の留守厚き輪切りの大根煮る

滑氷技笑顔が獲りし金メダル

冬競技旗手十六歳笑顔愛し

トロイ
石畳人の営み五千年

尾高さんより大島亮吉「漂泊者」(限定百部第一番)贈らる
形見とて稀覯の山書暮れかねる

なほ生きてスキーマラソン五〇キロ

押し帰るパンク自転車土手青む

鶴沢寛治
寒弾きや人間国宝鶴のごと

東日本大震災四句
生きてあり瓦礫の町に雪の果て

地は被災光いや増す春北斗

闇に入りにはかに覚ゆ丁子の香

父の受く卒業証書遺影の子

母親帰宅できず清一朗引取りに深夜の保育園へ
帰難民迎へ待つ子に春寒し

泰弘宅液状化被災
地震
(なゐ)噴きし春泥傾ぐ乙の家

何処にや応へ無き夜冴え返る

会津三句
登り窯崩れ駒ケ岳雪崩る

客絶へし会津春粧水の音

人消えて闌ける楤
(タラ)の芽空青し

高杖・南相馬市民避難
忍従の人ら思ひつ春スキー

原発
操りて操らる今受難節

街灯を消して喪の町椿落つ

幼な指飛花捉へむと母の留守

岩木山目地の果てまで林檎咲く

椎若葉万葉の世の幸思ふ

百足出づ今宵の妻は意地はらず

新樹晴「ね」で登りきるいろは坂

世は不定太鼓も鳴らぬ五月場所

二歳児の長靴小さき梅雨に入る

日本丸展帆
甦る海の白鳥梅雨晴れ間

黒南風や今も沖指す氷川丸

梅雨空に優弧聳つ観覧車

汽車道は長き素足で歩きたし

浜昼顔異国と似たる港町

露天にてヨガのレッスン六月風

雲の峰クイーン
(旧税関の塔)の円頭緑色

スカル漕ぐ「象の鼻」まで老いもまた

昼顔やひとり待ってる赤い靴

四葩剪る掌に一輪の重さかな


                      TOPに戻る  俳句INDEXに戻る  次ページへ