平成23年(2011)下半期


霊仙登山後、醒ヶ井
蛭の痕残す疲れや峡の宿


若狭熊川宿三句
遺されし暖簾降ろしぬ鮒の鮓


語り部と歩むや宿の片陰り


軒下を日夜行く水子ら遊ぶ


またひとつ虫の名覚え「セミハドコ?」


朽木の里
語り倦まぬ杉の長老蚊遣り香


小谷城址
落ち蝉はみな空仰ぎ小谷山


剣岳二句
登山道命を握る鎖濡れ


驟雨来て届かぬ右の足掛かり


朝日小屋夜景
秋澄むや闇に灯が描く能登の国


朝日岳三句
山頂は斜陽浴びをり松虫草


高嶺指す暁闇の道露の音


山粧ふ小屋仕舞ひまで十余日


岳は秋お喋り媼と列車待つ


泥落し塗油す山靴冬隣


青みある芝生に散る葉喪のはがき


湯豆腐にレモン一滴詩は未生


東カナダクルーズ
ブリッジに今もコンパス鳥渡る


アンカレジ三句
二十四時不時着の地は氷点下


霧の奥クックの像は海図持つ


ロゼ色に聳ゆ高嶺や秋落暉


朴落葉卓上に旅物語る


卒業後60年
二割逝き集ふ三割銀杏散る


銀杏黄葉幹に立掛く古箒


横たはる裸婦描く五人小六月


梅小路機関車保存館
活きてあり湯気噴く機関車同い年


音冴えて列車連結凝視の子


数え日や臨月の娘の拭き掃除


第4孫誕生
冬暁に高々と呱々明日へ翔ぶ


冬日和ガーゼの産着宙に向く


診立て措き天城の山に雪を踏む


冬至風呂CT疑点縮小す


肺がん疑晴れて銀杏の落葉舞ふ

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