平成二十二年(2010)下半期


蜘蛛の囲の宝冠光り雨あがる

白南風やザックの傷み繕ひぬ


蝿を打つ慈悲一瞬の遅れかな

風の道守宮ちろりと参入す


夜の魅惑落ち蝉一歩ゆらり二歩

利根川水源
水源へ踏む岩灼くる越の奥

雪渓に出会ふ幸せテイータイム

中ノ岳避難小屋三句
脱ぐまでの十四時間や登山靴

六千尺遠き街の灯涼しかり

お花畑北斗七星新たなり

夜に二人鵺(ヌエ)の声あり山鎮む

運動会競らぬ二歳児競ひ初め

砂団子呉れし子も去り秋夕焼

小さき手に引かる宵あり庭花火

戦後とて多しと聞かず暑さの死

閉尿に耐えゐし一夜夏旱

尿道管外すや登山まで十日

夏やつれ身に遠かりし剱岳

赤き爪西瓜叩いて選びをり

逝くかたち子らに伝へて墓掃除

白露かな馴染みの店で偲ぶ会

白馬の水影乱す秋の魚

クレープシュゼット
デザートに点す蒼き火惜しむ秋

粧ふ山大雪渓は雪を待つ

逆さ嶺乱す魚影や秋の水

けふ限り閉ざす山小屋冬構へ

秋天に対の赤き実樹の祈り

冥き地にも生きる甲斐あり七竈

イタリアの旅の記憶や香の茸

桃を剥く妻も好みのブラームス

スキー場便りに交じり喪の葉書

強談判一息まずは柿を剥く

迎へ待つ園児指さす三日月

河豚鍋や亡友隣る去年の鍋

散骨の仕方説く記事日短か

ネパールの村三句
天にまで積みし棚田や鷹迅し

冬日和子等も牛追ふ棚田かな

踊る子ら見守る女教師小六月

ヒマラヤ桜満開
花の下神の座仰ぎ暮らし継ぐ

赤と黒ダウンの胴着ペア老いぬ

比べ合う体力年齢残る虫

餅搗き会子ども遊ばぬ団地かな

越年を旅の仲間とN響で

姑百歳送りて寡婦の縫ふ春着

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