平成21年(2009)下半期


デルフォイ
灼け壁に神の声あり古代文字

アクロポリス
時白く凝る列柱や朱夏の丘

フィヨルドに逆さの城砦夏の月

「がんくつ王」読む子に隣る夏休み

執着や八度は為らぬ七変化


白浴衣道尋ねらる京の辻

レストラン菊水
卓布染む幼児の記憶葡萄水

東福寺通天橋
万緑の中空にある笑顔かな

戦時下を知らぬ妻なり敗戦忌

秋彼岸岳父の好みしバッハ聴く

主無き三弦に触れ菊の酒

秋澄む日水絵「マナスル」搬入す


帝国陸軍歩兵上等兵
秋天や父母の思ひの尖塔墓

颶風去る修験の山へ発つ朝


八海山
七十路の修験の岩場櫨紅葉

旧碓井峠
廃線の橋梁アーチ秋落暉

橡の実やひもじき戦後忘れざる

思ひ出も盛る青磁皿月の縁

汝も余生後れ蚊腕に憩はしむ


ハンガリアンダンス
瞳の蒼き乙女と踊る月の夜


世界遺産テルチ
小春風お伽の国の人となる

ボヘミヤ
スメタナの国の山河や秋の声

チェスキークルムロフ
炉の匂ひ古城尖塔暮れ残る

プラハ
旅の果て手帳に挟む黄の落葉

冬鴉ビュッフェの木立叫びをり

黒豆は丹波飛切年用意

良き日なり掌に受く枯木影

山仕舞ひ雪富士に挙ぐ赤ワイン

すれ違ひ己もてなす牡蠣の鍋

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