平成20年(2008)下半期 


踏破すと奴にいふべく雲の峰


野外演奏松籟に乗るモーツアルト


炎昼や闇に煌き光蘚


一鳴きで止む老鶯の悟りかな


信州諏訪遺跡

熱帯夜仮面土偶の踊り出づ


御柱曳きし綱褪せ苔の花


冒険を語る幼の日焼けかな


オーベルジュ土佐山

朝餉席青き棚田を正面に


終演の楽士の寡黙蝉落つる


歎異抄読み返しをり秋の顔


定まらぬ裸婦の描線菊日和


二児育て上げし寡婦けふ秋の服


冬瓜買ふ胎動盛ん宥めつつ


安産の報せ来るころ寝待月


次女男児出産

ぽろり落つ臍の緒硬し秋彼岸


新じゃがの冷製スープわが秘伝


マシン曳くジムの老輩敬老日


後進(リバース)の白泡秋の航終はる


喪の旅や今朝冠雪の富士眩し


ふるさとは友と仏と紅葉の朱


奥嵯峨鳥居本

火恋し茅葺茶屋の翳り描く


いのち食ぶ今炙られし山鶉


皇海山

照らされて異界へ跳ねし夜の鹿


鵙鳴くや日暮れと競ふ下山道


鵙一声応えて垂るる夜の帳


食卓に一行のメモ暮れ易し


オバマ当選

彼我はるか白頭鷲の自在かな


朔風や白富士支ふ裾長し


冬木の芽赭きを鎮め天城暮る


公憤や日々止め処なき落葉掃く


ロンドンへ妻浪漫の聖夜かな


風花す女子高生ら腿白し


次ページへ進む
俳句館目次へ
     保存館TOPへ