平成19年(2007)下半期

利尻山
白夜光錐体天に迫り上ぐる

瑰やひとり利尻と相対す

利尻富士据ゑし渚やお花畑

北の宿源泉五つ明け易し

口ずさむ旧き舟歌夜半の夏

ユミ子スイスへ
予後の身の鉄路の旅や銀杯草

露草や瑠璃生じたる舗装皹

参院自民大敗
開襟や恥じざる人の軽き口

沖縄・平和の礎
刻名は敵も味方も雲の峰

幼ならに死後語りをり大文字

満灯会蝋燭の火も闇を持つ

山小屋の梁の太さよ霧流る

山終はる出で湯ぬるきに浮く紅葉

岳父急逝三句
秋澄む日旅立つ吾に訃報かな

月の暈遺言となりし夜のメール

星流る十四違ひの父なりき

風の指揮光たゆたふ夕薄

乗鞍岳
乗鞍や裾濃に化粧ふ神の留守

神坐(いま)す頂上社司の水っ洟

富士根雪砲声湖(うみ)になほ熄まず

地を打って団栗ひとつ転がり来

妙義峨々嵐洗ひし朝の月

空洞
(ほら)露は伐られし老樹冬芽あり

歯科の椅子幽けくも器具音冴ゆる


チョモランマベースキャンプへ
吾が行く手五千メートル冬支度

冬日燦かの嶺描く旅に発つ

夜明けのチョモランマを描く
神の坐を茜に染むや絵筆凍つ

(青蔵鉄道)
鉄路越ゆ崑崙山脈風凍る

冬野行く列車に酸素吸入器

家路凍つ落暉を追ひて犛牛
(ヤク)の列

天狼やタルチョの家に曙光射す

黄の大地五体投地の寒詣で

鳥葬やとどの献身冬暁に

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