平成十七年(2005)


幼らも礼覚えきて年新た


末子
採寸はウェディングドレス冬芽紅


雨だれの庭に既視観(デジャビュ)暖炉燃ゆ


城崎や甲羅煮尽きて夜話つづく


八鹿過ぐ記憶のままの雪国へ


鳥雲に詩藻を拾ふ汀かな


料峭や廃船の名の消え残る


船撫でて癇癪癒す春の浪


跡を訪ふ渚ホテルや夕長し


玉石や世は移り来て春怒涛


花屑や山積み蔵書崩れをり


土まとひ届くたかんな父母の無事


悼F君二句
十日前届きしメール春の闇


花吹雪ホームページの遺(のこ)りけり


旗日かな街静まりて蟻出づる


ツェルマットからチェルビニアへ
春スキーけふのランチはイタリアで


末子嫁す三句
萌黄さす欅の梢待つ良き日


切子杯映ゆる華燭をともに挙ぐ


燭消えて残るブーケの白薔薇(そうび)


花の種添へて選外通知かな


なほ止まぬ反日デモや蟻の国


四半期に四人逝きけりしゃぼん玉


縦走路夏鶯を下に聴く


屋久島二句
山開き焼酎「愛子」嚢に秘め


羽根捥がれ干さる飛魚宙蒼々


生きるとは立ち向かふこと火取り虫


紫陽花や山と絵と句の日々足れり


バーの灯に時積むホテル梅雨曇り


越の田や旧き農持し蛍舞ふ


離れ蛍フロントガラス灯しをり


新潟銘酒
青田波名山揃ふ地酒かな


クールビズ
宰相の度量透けたり白きシャツ


時の日や子役演じる妻を観に


祝たかおさん新人賞
八合目雲海抜けて朝日浴ぶ


露天湯や越え来し夏嶺茜さす


焼岳へ誘ふ電話大夕焼け


蟇交む重なる峰の果てに富士


ベローナニ句
アリア果てアイーダ余韻星流る


古代址のオペラたけなは月天心


ルッカ二句
驟雨去り城壁のうち古都新た


城塞の街一望に虹の橋


妻言ひし「亡き後放置」の芝を刈る


木曽殿越小屋
満床の小屋寝静まり銀河垂る


霧の海一瞬一会嶺の貌


秋光や槍頂上の蒼き風


テントの夜異国の人と地図を読む


彼の嶺の山靴の泥庭に撒く


飴ひとつ転(まろ)びしザック八月尽


十日経し山の日焼けで書庫にゐる


古希発ちぬ自らを問ふ秋遍路


土の香に疎開の記憶鳳仙花


秋霖やわれ茅葺の胎内に


招かれし雨の古民家風炉名残り


日曜を雨に稲刈る脛白し


新世紀子ら稲扱きに行列す


帰り花パスタの皿に入日さす


子ら仕掛くルビー婚式冬温し


擱筆は白のひと刷毛富士冠雪


汝が眼映ゆ嶺の冬晴二人だけ


笑みて挙ぐ手袋白し皇女嫁す


長電話京の底冷え家業にも


廃校のピアノ艶あり雪をんな


手套脱ぐ拉致救援の署名かな


翼欲しひたすら北風(きた)へ風向計


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