平成十六年(2004)


初寄りや第一声のあらたまり


鳩も子も光の中に初写真


ログハウス童画のままに冬灯洩る


シュプールや極めし技のうるはしき


宛名書く春には絶える村の名を


解けさうな因数分解春隣


猟期終る乙女の像と憩ひをり


それぞれに家族のかたち春の園


忍従のいのちは紅し木々芽ぐむ


ペン執らずキー打つ日々や糵(ひこばえ)


来てみれば店代替り木の芽和


つくしんぼ越し方仰ぎ山を了ふ


見下ろせばひと刷毛の紅桃の村


「ともしび」で唄ひませぬか花月夜


京便り朝掘りたかんなずっしりと


春北風(ならい)ふたりで支ふ壊れ傘


路地裏や花屑流る風の道


ふたごころ箱根空木の花の色


卯の花や人みな唱歌口ずさむ


メキシコ四句
聳ゆ虚無マヤ神殿に蜥蜴走す


指と目で掛け合ふペソ値竜舌蘭


マヤ滅び回る天井扇風機


夜のメロン「ル・クルークク・パロマ」唄ひたし


パラセーリング
妻と翔ぶカリブの夏や青と碧


瀧の修羅落下のさだめ止め処なく


他人(ひと)は他者(ひと)褪せし石楠花なほ枝に


初夏や山の彩り染むこころ


石楠花訪ふ縦走三日の重荷かな


千曲川水源
岩滴り三百キロの旅はじめ


人口島紫陽花海に零れをり


巡礼者ピレネーへ発つ櫻桃忌


今年また遠き宵山氏子われ


ギヤマンの野菜ジュースやけふ新た


転がるや茄子新しき形見せ


完熟の安値や青きわがトマト


田に白き都会の子らの裸足かな


古希までに大約束の山登り


計画書送りて登山靴磨く


大男練乳を買ふ登山前


大文字へ夜道の妻の手の小さき


仏法僧義母の話は繰り返し


継嗣なきデジタルの世の祭りかな


山の気を画布に写すか木の葉蝶


野分凪ぐ噴煙幽か十勝岳


登高のてっぺん一等三角点


露天湯で山の旅了ふ黄落期


秘湯てふ暗き湯壷や濁り酒


問はざるに人みな語る月の宿


華やぎは赤壁にのみ後の月


爽籟や飴屋老舗の白暖簾


時雨亭しぐれの中に朱傘立つ


赤林檎メルヘン大賞募集あり


陸中より真昼岳に登る
ザック下ろす視界際無し羽後錦秋


ひたすらに山下り来し柚子湯かな


「泊まってけ」あとは黙して牡丹鍋


八百年古寺に棲む亀秋日和


文遺すもののふの墓蚊の名残り


曼珠沙華燃えて朱の橋朽ちしまま


約束は三度目も反故冬の雨


冬日低く浮遊塵見ゆ文学館


狐火の不思議聞き入る幼の目


けふひとり牡蠣の燻製試みむ


暮れ早し明日へ洗ふけふの筆


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