学生時代、就職ということを甘く考えていた。
いや、いまから真面目に考えろと言われても戻れないから考えても仕方のないことではあるが、昔のことを振り返ってみた。
私は応用物理の出身であるが、専攻分野である応用物理にはまるで興味が持てないでいた。
かといって就職するときに金融系に行く気はしなかった。
お金に対する本能的な恐怖感を持っていたからだ。
また、建設業にも興味がわかなかった。
父は建設業の現場で作業をしていたから、その過酷さにはついていけないだろうと思った。
さらに、サービス業とも無縁だと思っていた。
自分のどこにサービスという概念があるのだろうか。
だから消去法で、製造業のどこかに入ることができればいいと考えていた。
製造業の中では、食品製造業がいいかなあ、と思っていた。
なんといっても(他人様に)食べてもらうことで(自分が)食べられるからだ。
そんなことを卒論指導教官に伝えたら「そんなところに言ったら、電子顕微鏡のお守をさせられるのがオチですよ」とたしなめられた。
電子顕微鏡は理系のどんな分野でも使えるし、技術的にも進歩の余地があるから、なにもお守ということばで貶めなくともいいのに、と内心反発した。
しかし、この教官は民間企業(装置製造業)や半官半民の研究機関に籍を置いたこともある方である。
ただの軽口ではなく、経験に基づいての発言であろうからそれなりの重みがあるものと考え、食品業界への就職はあきらめた。
今でも、食品業界に進んでいたらどうなったかと思うことがある。
教官の予言通り、電子顕微鏡のお守をしていただろうか。
それはそれで楽しかったような気がする。
MARUYAMA Satosi