大学生でも後半となると就職のことが頭をかすめる。
モラトリアムからの脱出は嫌だったが、何もしないでいるわけにもいかない。
企業からいろいろな案内が自宅に来るようになった。
そんななか、銀行に勤めているある先輩から、話をするだけでもいいからその銀行の採用担当者とあってみないか、と声をかけられた。
まあ、会ってみるだけならと応諾して、指定されたその銀行のあるビルに向かった。
着いてあたりをみるとそのビルは広く、担当者がどこにいるのかはすぐにはわからなかった。
一回りすると背広にネクタイをしている担当者のような方が立っているのを見かけたが、私からは声をかけづらかった。
というのも、私はネクタイも背広もせずふだんの服装だったからだった。
常識知らずの私から声をかけるなんて恥ずかしい。
一方、担当者の人もずっとビル周辺にいて人探しのふうではあった。
しかし、私に気付いているのかどうかはわからなかった。
おそらく気付いてはいたが、常識知らずの小僧に銀行員から声をかけるなんてプライドが許さない、こんなやつが当行に入るなんて迷惑だ、とかなんとか思っていたに違いない。
結局その場には1時間ほど滞在したあとで退去した。
翌日、紹介した先輩からは「結局会えなかったんだね、次回セッティングしておくよ」といわれたが、次回はついに来なかった。
次回うんぬんは本意ではなく、「そんな非常識な学生は願い下げだ」というのが正直なところだろう。
MARUYAMA Satosi