J. S. バッハ ピアノ名曲解説

作成日:2006-09-14
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ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (Johann Sebastian Bach, 1685-1750) は、ドイツの生んだ大作曲家である。バッハ一族には音楽家が多いことでも知られていて、 他のバッハ一族の作曲家と区別して J. S. Bach は特に大バッハと呼ばれることがある。 なお、大バッハ以外のバッハには、たとえば大バッハの次男であるカール・フィリップ・エマヌエル・バッハなどがいる。

インヴェンションとシンフォニア

インヴェンション、シンフォニアとも、短い15の曲からできている。 15の曲はいずれも調が異なる。 インヴェンションは2つのメロディーを組み合わせて一つの曲にまとめたもの。 シンフォニアは3つのメロディーを組み合わせて一つの曲にまとめたものだ。 メロディーを組み合わせることは、2つだけでも大変なことだ。 強さのバランス、滑らかさの対比、リズムの明確さなど、 考えるべき要素がいくつもある。それらを考えに入れながら、 聞いてみるのは何ともいえない愉悦だ。

昔は、シンフォニアのことを「3声のインヴェンション」と言っていた。 それと対比して、インヴェンションは「2声のインヴェンション」であった。 今はどうなっているのだろうか。私は昔風の言い方が好きだ。

私が好きな曲は、インヴェンションでは第1番ハ長調、第5番変ホ長調、 第6番ホ長調、第9番ヘ短調、第13番イ短調など。 シンフォニアでは、第5番変ホ長調、第12番ト短調、第13番イ短調、第14番 変ロ長調など。

イギリス組曲

組曲とは、複数の曲をまとめて一つにまとめた形態の曲をいう。 バッハはピアノのために、多くの組曲を作っている。 イギリス組曲という名前は、後生の人が名付けた。 バッハの作った組曲には、フランス組曲、パルティータなどがある。

イギリス組曲は全6曲からなる。ややこしいが、組曲だから、 1曲の中にも多くの曲がある。イギリス組曲の場合は、 前奏曲、アルマンド、サラバンド、ガヴォット、ジーグなどからなる。 フランス組曲には前奏曲がない。イギリス組曲を特徴づけるのは、 この前奏曲、それも比較的大規模な前奏曲である。

優美な第1番、せわしない第2番、おおらかな第3番、ごきげんな第4番、 厳しい第5番、雄大な第6番を、それぞれ味わって頂きたい。

平均律ピアノ曲集

インヴェンションとシンフォニアで提示された世界を、 バッハは2つの方向で発展させた。一つは、メロディーの組合せの世界を、 より自由に発展させること、もう一つは、メロディーの組合せの世界を、 より厳格な形式のもとで完成させることである。 前者は前奏曲、後者はフーガという形をとった。 それを組み合わせて、さらに使う調も15から24に拡大した。 これが平均律ピアノ曲集である。なお、字として「平均率」を使うこともある。 また、バッハが念頭においた鍵盤楽器は厳密にはピアノではなく、 チェンバロやクラヴィコードである。

平均律ピアノ曲集は2巻ある。第1巻の第1番の前奏曲は、 分散和音のみで描かれた美しい流れである。 後に、フランスの作曲がグノーが、この前奏曲を伴奏にして、 アヴェ・マリアという歌曲を作った。 そのほか、第1巻では最後の第24番の前奏曲とフーガが印象深い。 第2巻は、第14番嬰ヘ短調の前奏曲とフーガが格調高い。 また、第22番変ロ短調も優美な前奏曲と迫力あるフーガが、聞く価値がある。

イタリア協奏曲

協奏曲とは、 伴奏のオーケストラの上で独奏楽器がメロディーを奏でる曲のことをいう。 しかし、この協奏曲は、ピアノだけである。オーケストラはない。 なぜ協奏曲と言われるのか。 作曲書法が協奏曲に近いからである。すなわち、 独奏部分と伴奏部分とが比較的はっきり分かれていて、 演奏するときに表情を付けやすいからである。

曲想は、バッハにしては比較的お気楽である。 第1楽章は歯切れのいいリズムが特徴的だ。 第2楽章は、愁いを帯びた弦楽器向きのメロディーが泣かせる。 第3楽章は、恐いものなしの高速ロンド。 若者がミスを顧みずに弾きまくるべき曲。

ゴールドベルク変奏曲

バッハの知と情が見事に調和した大作。 主題にひきつづき、30の変奏が時に厳しく、時に優しく奏でられる。 最後に主題そのものが弾かれる。 これは、時代を下った他の変奏曲にはない書法である。

トッカータ集

バッハはチェンバロのためのトッカータを7曲書いている。若書きゆえの粗さはあり、 中にはだれてしまう曲もあるが、特に若いみなさんには弾いてほしい。 嬰ヘ短調、ト短調、ハ短調、ニ長調、ト長調、ホ短調、ニ短調がある。 比較的テクニックがやさしいのはホ短調、有名なのはハ短調。 私が好きなのはト短調である。ト短調のフーガはほとんど音頭である。

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MARUYAMA Satosi