理想のピアニスト(第10回):ブレンデルの思い出

作成日:2003-12-14
最終更新日:

そそられないピアニスト

私が聞きたいピアニストというのはそれほどいない。 そして、そそられないピアニストは数多くいる。

たとえば、ハイドンのピアノ曲をレパートリーに入れていない、 という一点でアシュケナージは碌なピアニストではない、 ということを私は書いた。

そんな、そそられないピアニストがもう一人いる。アルフレート・ブレンデルである。 若い頃はかなりテクニックばりばりでならしたピアニストらしいが、 今となってはかなりよれよれしているばかりだ。 2003年の12/14にN響アワーの録画で、ベートーベンのピアノ協奏曲第5番を聴いてみたが、 達者とはいい難かった。 この録画は1985年であり、当時からそんなにガタがきていては、 今となってはいい演奏はできないだろう。

とはいえ、ブレンデルには恩義がある。ピアノの名曲に目覚めていろいろな曲をFMで聴いていたころ、 シューベルトのソナタを弾いていたのはたいていブレンデルだった。 特に、あのD.960はそうだったろう。私が好きなシューベルトの曲で、D.960は五指に入る (一番好きなのはD.958)。 金のなかった私に惜しみなくシューベルトの陰影のある旋律を提供してくれたのは、 NHKであり、ブレンデルであった。それを私は恩義と思っている。 恩義だからどこかで返さなければいけないのだろうが、NHKには受信料として返し過ぎている。 ブレンデルには多くのファンがいるから、そういったファンに託して返した、ということにする。

それはそうと、シューベルトのピアノソナタでヘボな演奏にはまだ出会ったことがない。 これは奇跡といってもいいのではないだろうか。 それとも、私がシューベルトのピアノソナタを溺愛する余り、 演奏の上手下手まで気が回らなくなってしまっている、 ということなのだろうか。やはり、理想のピアニストを論じているのではなさそうな気がしてきた。 (2003-12-14)

ブゾーニのトッカータ

とはいえ、ブレンデルはこんなものも弾いていたのか、と思うことがある。 イタリアの作曲家、ブゾーニに、トッカータという曲がある、労力の割には効果が上がらない、と言われている。 これをFMで初めて聞いたとき、弾いていたのはブレンデルだった。 何だ、ちゃんと弾けるじゃないか、と思った。(2009-02-01)

追記:ブゾーニのトッカータを弾くピアニストが日本にいるのだろうか、と思っていたら、私の大学時代のサークルの後輩の Y くんが弾いたので驚いた (2016-03-26) 。

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MARUYAMA Satosi