有本 卓:システムと制御の数理

作成日:2011-11-20
最終更新日:

概要

感想

まえがきで著者は、『最初に呈示された書くべき要綱案がバンドワゴンのようになるのも致し方なかった』 と述懐している。バンドワゴンとは何だろうか。 英和辞書で引いてみると、祭りの先導車と書いてある。これだけではわからないが、 きっとあれもこれも詰め込んだ状態を模していっているのだろう。 著者のバンドワゴン状態の要綱案を見たかった。

第 1 章ではやはりというべきか、Banach 空間の例が出ている。制御と関数解析は関係が深いということがわかる。 おまけに章末の演習問題 1.11* では、次の問題がある。

`X` をある Banach 空間の閉集合とする.`X` から `X` への縮小写像 `T` は `X` の中にただ一つの不動点, すなわち,`Tx^**=s^**` となる点 `x^** in X` をもつことを示せ.

これはどう見ても数学である(当たり前か。このシリーズは応用数学なのだから)。

第 2 章では、二重振子として見た教会の鐘、磁気浮上車の模式図、ロボットの腕(マニピュレータ) などが描かれている。私がわかるのは、これらに図があるというところまでである。

章末問題の中で * がついている問題は、数学的に高度である、ということをきっと言っているのだろう。

ケルン大聖堂の巨大な鐘は鳴らない

p.38 に次の記述がある。

(前略)このことは,Cologne 教会の巨大な鐘が鳴りにくいこととして観察されていた.

Cologne 教会というのを知らなかったので調べてみたら、ケルン大聖堂のことだった。 この大聖堂には鐘はいくつかあるが、もっとも大きいのは鳴らないらしい。著者がいうのには、教会の鐘は二重振子であり、 これがある種の条件を満たすと制御系として見えない、つまり鐘の音としては聞こえない、ということのようだ。

模式図を書くのはしんどいので、教会の鐘に関するラグランジュの運動方程式

`d/(dt)((del L)/(del dotq_i)) - (del L)/(del q_i) = F_i, quad i = 1, cdots, n`

を導こう。教会の鐘は外身と舌(ゼツ)からなり、舌が外身とぶつかることによって音が出る。以下、外身を第1振子、 舌を第2振子と称する。建造物からぶらさがっている第1振子とのジョイントを `J_1` とし、 第1振子と第2振子とのジョイントを `J_2` とする。ジョイント `J_1` が鉛直となす角度を `q_1` と、ジョイント `J_2` がジョイント `J_1` となす角度を `q_2` とする。 以下、`bbq=[q_1, q_2]^T` を一般化座標として選定する。第1振子の `J_1` のまわりの慣性モーメントを `I_1` とする。 また、第2振子は `J_2` から距離 `s_2` に質量 `m_2` が集中しているとする。これらから、運動エネルギー `K` は

`K = 1/2 I_1 dotq_1^2 + 1/2 m_2 [{d/(dt) (l_1 cos q_1 + s_2 cos(q_1 + q_2))}^2 + {d/(dt) (l_1 sin q_1 + s_2 sin(q_1 + q_2))}^2]`
`\quad = 1/2(I_1 + m_2 l_1^2) dotq_1^2 + m_2l_1s_2 dotq_1(dotq_1 + dotq_2) cos q_2 + 1/2 m_2s_2^2 (dotq_1 + dotq_2)^2`

一方ポテンシャルエネルギー `P` は次の式で表される。

`P = (m_1s_1 + m_2l_1) g (1 - cos q_1) + m_2s_2g(1 - cos(q_1 + q_2))`

ここで、`g` は重力定数である。以上から、ラグランジアン `L = K - P` は

`L = K - P = 1/2 (I_1 + m_2l_1^2)dotq_1^2 + m_2l_1s_2 dotq_1(dotq_1 + dotq_2) cos q_2 + 1/2 m_2s_2^2 (dotq_1 + dotq_2)^2 - (m_1s_1+m_2l_1)g(1-cos q_1) - m_2s_2g(1 - cos (q_1 + q_2)) `

Lagrange の運動方程式は次の式のように求められる。

`{(d/(dt) {(I_1 + m_2 l_1^2) dotq_1 + m_2s_2^2(dotq_1 + dotq_2) + m_2l_1s_2(2dotq_1+ dotq_2) cos q_2 } +(m_1s_1 + m_2l_1)g sin q_1 + m_2s_2g sin(q_1+q_2) = tau), (d/(dt) {m_2s_2^2(dotq_1 + dotq_2)} + m_2l_1s_qdotq_1(dotq_1+dotq_2)sin q_2 + m_2s_2g sin(q_1+q_2) = 0):}`

途中を大幅に飛ばそう。p.37 から、上記例で述べた教会の鐘について出力を `y=q_2` で選ぶことにする。 可観測性の Gram 行列は次のとおりとなる。

`Psi^T = [(0, 1, 0, 0),(0, 0, 0, 1),(a_(41), a_(42), 0, 0),(0, 0, a_(41), a_(42))]`

ここで `a_(41)` は次のように計算される。

`a_(41) = g / (det H) {(-m_2s_2^2 + m_2l_1s_2)(m_1+m_2(l_1+s_2)) + (I_1+ m_2l_1^2 + m_2s_2^2 + 2m_2l_1s_2)m_2s_2}`
` = (m_2s_2g) / (det H) {I_1 - m_1s_1(l_1 + s_2)}`

上記から、`a_(41) = 0` であることが起こり得る。このとき `rank (Psi) = 2 > 4` となり、システムは可観測ではなくなる。 つまり、`I_1 / (m_1s_1) = l_1 + s_2` が成立した時、教会の鐘は可観測ではなくなる。これは、鐘が鳴りにくいことを意味している。

数式について

数式表現には、MathJax を用いている。

書誌情報

書 名システムと制御の数理
著 者有本 卓
発行日1994 年 2 月 10 日
発行元岩波書店
定 価円(本体、3冊合体時)
サイズA6 判 ***ページ
ISBN4-00-010518-3

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MARUYAMA Satosi