エルミートの多項式

作成日 : 2016-09-18
最終更新日 :

量子力学でおなじみのエルミートの多項式

エルミート多項式はフランスの数学者であるシャルル・エルミート(1822-1901)の名前からとられている。 エルミートの名前はエルミート行列などの名前で知っている人も多いだろう。

さて、直交多項式の積分の範囲が有限である、 チェビシェフ多項式やルジャンドル多項式は大学入試の数学問題にも出やすいが、 エルミート多項式は積分範囲が `-oo` から `oo` なので、ラゲール多項式同様、大学入試の試験問題で出ることはまずないだろう。

さて、エルミート多項式の興味深い性質を少しずつ探っていこう。なお、以下は特記なき限り正規化されていない形の多項式を取り扱う。

エルミート多項式の定義

エルミート多項式はさまざまな定義がある。たいていは微分方程式で定義されているが、 最初はロドリゲスの公式からの定義がよいような気がしてきた。

ロドリゲスの公式

エルミート多項式を表すロドリゲスの公式は次のとおりである。ここで `n` は負でない整数である。 (文献[3] p.144 )。

`H_n(x) = (-1)^n e^(x^2) d^n /(dx^n) e^(-x^2)`

エルミート多項式 `H_n(x)` の具体的な形を下記に掲げる。

`H_0(x) = 1`
`H_1(x) = 2x`
`H_2(x) = 4x^2 - 2`
`H_3(x) = 8x^3 -12x`
`H_4(x) = 16x^4 - 48x^2 + 12`
`H_5(x) = 32x^5 - 160x^3 + 120x`
`H_6(x) = 64x^6 - 480x^4 + 720x^2 -120`

グラフ

`H_n(x)` のグラフを次に掲げる。スケールに注意。

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微分方程式

`n` が負でない整数のとき、上記のエルミート多項式 `H_n(x)` は下記の微分方程式を満たす。

`d^2/(dx^2) H_n(x) - 2x d/(dx) H_n(x) + 2n H_n(x) = 0` .

漸化式

次に、エルミート多項式が満たす漸化式を掲げる。

`H_0(x) = 1`
`H_1(x) = 2x`

`n >= 2` の `H_n(x)` は、次の漸化式により定義される。

`H_(n+1)(x) - 2x H_n(x) + 2n H_(n-1) (x) = 0`

直交性

エルミート多項式は次の直交性を満たす。

`int_-oo^oo e^(-x^2) H_m(x) H_n(x) dx = delta_(mn) 2^n n! sqrt(pi)`
ここで `delta_(mn)` はクロネッカーのデルタである。

高校数学の範囲で低次のエルミート多項式の直交性を確認しようとしたが、断念した。 こうなったら、高校数学ということは考えずに `H_m(x)` と `H_n(x)` の直交性を調べる。 `m != n` のとき、`m > n` として一般性を失わない。ロドリゲスの公式から次が成り立つ。

`int_-oo^oo e^(-x^2) H_m(x)H_n(x) dx = (-1)^n int_-oo^oo H_m(x) (d^n e^(-x^2)) / (dx^n) dx`

右辺に部分積分を適用すると、次のとおり分解される。

`(-1)^n [H_m(x) (d^(n-1) e^(-x^2))/(dx^(n-1)) ]_-oo^oo - (-1)^n int_-oo^oo (dH_m(x))/(dx) (d^(n-1) e^(-x^2))/(dx^(n-1)) dx`

第一項は、指数関数の特性である、`lim_(x->oo) x^n e^(-x) = 0` が成り立つことから、計算結果は 0 となる。よって第2項だけが残る。
最初の式と比べると、全体の係数 (-1) が変わっていること、それから `H_m(x)` が一階微分となり、`e^(-x^2)` の項が残ることがわかる。 従って、さらに部分積分を繰り返すと、`H_m(x)` が `(m+1)` 階微分したところでこの式がゼロとなり、必然的に `H_m(x)` と `H_n(x)` は直交する。

なお、直交性を誤って直行性と記して質問を寄せる人がいる。注意されたい。

直交性を確認するグラフ

低次のエルミート多項式で、直交性を確認するためのグラフを作成した。 `y = 0` の上下で、面積が同じになっている(ような気がする)ことを実感してほしい。

`H_n(x)` のグラフを次に掲げる。`n` が奇数のとき奇関数、`n` が偶数のとき偶関数なので、 `H_n(x)H_m(x)` は必ず奇関数か偶関数である。奇関数のときは当然ゼロになるので、 `H_n(x)H_m(x)` が偶関数かつ `n != m` のときのみ掲示する。

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母関数

エルミート多項式 `H_n(x)` の母関数は ` e^(-t^2 + 2tx) ` である。すなわち、

`e^(-t^2 + 2tx) = sum_(n=0)^oo (H_n(x)) /(n!) t^n `

文献[2] pp.210-211、文献[3] pp.146-147、

応用 : 量子力学

主に文献[4] pp.3-4 に従って量子力学とエルミート多項式の関係について述べる。

量子力学では、1粒子系の状態を指定するのは、その粒子にともなう物質波の状態を表す関数 `psi(x,t)` である。 一次元のシュレジンガー方程式は次のような形で表される :

`i ħ del/(del t) psi (x, t) = - ħ^2 / (2m) del^2 / (del x^2) psi(x, t) + V(x) psi(x, t). quad (1)`

ここで、`i` は虚数単位、`m` は粒子の質量、`ħ` は換算プランク定数といわれ、プランク定数`h` を `2pi` で割った値である。 また、`V(x)` はポテンシャルで実数値関数である。

(1) が時間的に単振動する解をもつとする。すると `psi(x, t)` は次のようにかける。

`psi(x, t) = varphi(x) e^(-i(E//ħ)t) quad (2)`

このとき、`varphi(x)` は次の方程式を満たす。

`- ħ^2 / (2m) d^2 / (d x^2) varphi(x) + V(x) varphi(x) = E varphi(x) quad (3)`

ここで `varphi(x)` は系の定常状態を表す関数である。

一方、ポテンシャル `V(x)` にはさまざまなものが考えられる。ここでは一次元調和振動子を考えよう。 バネ定数 `kappa` のバネに質量 `m` の質点が取り付けられている。質点は単振動をする。ポテンシャル `V(x)` は次で与えられる。

`V(x) = 1/2 kappa x^2 quad (4)`

パラメータ `omega = sqrt(kappa / m)` を用いると次のように書き直せる。

`V(x) = 1/2 m omega^2 x^2 quad (5)`

これに、量子化の規則を適用する。量子論的ハミルトニアンは次のとおりである。

`H = - ħ^2 / (2m) d^2 / (d x^2) + 1/2 m omega^2 x^2 quad (6)`

そこで、定常状態を求めるためのシュレジンガー方程式 (3) は 次のようになる :

`- ħ^2 / (2m) d^2 / (d x^2) varphi(x) + 1/2 m omega^2 x^2 varphi(x) = E varphi(x) quad (7)`

ここで、`varphi(x)` の解空間は内積空間、具体的にはシュワルツ空間にあるとする。一次元のシュワルツ空間を `ccS = ccS(RR^1)` で表す。 (7) の解 `varphi` が `varphi in ccS` かつ `varphi ≢ 0` である解をもつとき、 `E` を固有値、`varphi` を固有関数と呼ぶ。

数式とグラフの表現

数式の記法には ASCIIMath を、 数式の表示には MathJax を用いている。 またグラフの表現には DEFGHI1977@xboxlive 氏による SVGGraph (defghi1977.html.xdomain.jp)を使っている。

文献

[1] 森 正武、室田 一雄、杉原 正顕 : 数値計算の基礎(岩波書店)
[2] 吉田 耕作、加藤 敏夫 : 大学演習 応用数学 I (裳華房)
[3] 寺沢 寛一 : 自然科学者のための数学概論[増訂版] (岩波書店)
[4] 黒田 成俊 : 量子物理の数学(岩波書店)

リンク


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