宮寺 功:関数解析

作成日:2018-12-02
最終更新日:

概要

まえがきより引用する。

ここでは関数の集合である関数空間を考え, そこにおいて定義される作用素 (関数空間の各要素に他の関数空間の要素を対応させる写像) の性質を位相的方法により研究し, 解析学の理論を展開する.

感想

喜ばしい復刊

以下、旧本書とは、理工学社により出版された「関数解析」を、 新本書とは筑摩書房により出版されたちくま学芸文庫としての「関数解析」を指す。

旧本書は日本の関数解析の教科書で参考文献として引用されることが多い。 しかし、当初理工学社で出版された旧本書を手に入れることは困難だった。 というのは、その理工学社が解散してしまったからである。

新本書の解説をしている新井仁之氏は、自身のブログで旧本書を採り上げ、 「復刊してほしいが理工学社が解散してしまった」という意味のことを述べ、残念がっておられた。

おそらく、ちくま学芸文庫の方が氏のブログを見て、復刊を決意されたのではないかと私は思う。 喜ばしいことだ。

解析学と線形代数学

冒頭はそっけない。とはいえ、昔は、少なくとも 1980 年代初頭の数学の教科書はほとんど、 この本と同じようにそっけない感じだった。 今はかえって新鮮に感じる。 そして、関数解析が解析学と線形代数学の両方の先にあるという性質を受けていることからそれぞれのそっけなさが出ている。

1.1. 線形空間 の節だけみると、線形代数の教科書そのものである。 初年級の線形代数の本にないのは、無限次元の線形空間についての定義があることであろう。

1.2 Banach 空間の節は、こんどはまるで解析学の定義が並ぶ。 定義1.6. の冒頭が「線形空間 `X` の各元に実数 `norm(x)` が対応し」 とあるのを除けば、初年級の解析学であろう。 そうして定義があれよあれよと進み、定義1.11. に至って、Banach 空間が定義された。 ここまででわずか 22 ページである。新井氏がいう「一切の虚飾を廃し」ている、との評はよくわかる。

用語について

p.022 でBanach 空間のことを B型空間とも呼ぶ とあるが、今ではこの呼称はほとんど用いられない。

p.056 で Banach アルジブラの定義がある。今、Banach algebra は日本では、バナッハ代数とかバナッハ環というのがほとんどで、 バナッハ多元環、バナッハ線型環などもあるが、アルジブラを訳さずに表記するのは珍しい。ただ、この場合の algebra はいわゆる代数学的構造の 「代数」を表す概念ではないので、これもありかもしれない。

記号表

勉強の便宜のために記号表を作った。

`Phi`
複素数体または実数体
`norm(x)`
`x` のノルム
`bar(X_0)`
`X_0` の閉包
`S(x_0, epsilon)`
`x_0` の `epsilon` 近傍;点 `x_0` を中心とした半径 `epsilon` の開球
`tilde(X)`
`X` の完備化
`R^n`
`n` 次元 Euclid 空間
`K^n`
`n` 次元ユニタリー空間
`(l^p)`
`sum_(k=1)^oo abs(xi)^p lt oo` であるような実数列 `x = {xi_k}` の全体の集合
`(l^oo)`
`abs(x) = underset(k)("sup") abs(xi_k)` により定義されたノルムによる有界な実数列 `x = {xi_k}` の全体
`C[a,b]`
有界閉区間 `[a, b]` で定義された実数値の連続関数 `x(t)` の全体
`L^p(a,b)`
区間 `(a, b)` 上で `p` 乗 Lebesgue 積分可能な実数値関数の全体
`(a, b) \\ N`
測度 0 の集合 ` N ( sub (a, b))` に関して、`N` の `(a, b)` に関する補集合
`"ess sup" abs(x(t))`
`abs(x(t))` の本質的上限。`underset(t in (a, b))("ess sup")abs(x(t)) = underset(N in fr N)("inf") {underset(t in (a, b) \\ N)("sup") abs(x(t))}, N ` は測度 0 の集合。
`fr(N)`
区間 `(a, b)` に含まれる測度 0 の集合全体からなる集合族
`L^oo(a,b)`
区間 `(a, b)` 上で定義された可測かつ本質的に有界な実数値関数の全体
`(x, y)`
`x` と `y` との内積
`T : D -> Y`
線形空間 `X` の部分集合 `D` の各元 `x` に線形空間 `Y` の元 `Tx` を対応させる写像 `T`
`D(T)`
`T` の定義域
`R(T)`
`T` の値域 `= {Tx : x in D}`
`B(X, Y)`
ノルム空間 `X` からノルム空間 `Y` への有界線形作用素の全体
`B(X)`
`B(X, Y)` で `X = Y` の場合
`I`
恒等作用素 : `I in B(X), Ix = x ( x in X )`
`a-< b`
順序集合 `A` の任意の2元 `a, b` に対する順序
`X^**`
`X` の共役空間

誤植

p.364 上から 10 行目、 P. Joran となっているが、正しくは P. Jordan である。

数式記述

このページの数式は MathJax で記述している。

書誌情報

書 名関数解析
著 者宮寺 功
発行日2018 年 11 月 10 日(第1刷)
発行所筑摩書房
定 価1300 円(本体)
サイズ377ページ
ISBN978-4-480-09889-4
その他

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