まえがきより引用する。
ここでは関数の集合である関数空間を考え, そこにおいて定義される作用素 (関数空間の各要素に他の関数空間の要素を対応させる写像) の性質を位相的方法により研究し, 解析学の理論を展開する.
以下、旧本書とは、理工学社により出版された「関数解析」を、 新本書とは筑摩書房により出版されたちくま学芸文庫としての「関数解析」を指す。
旧本書は日本の関数解析の教科書で参考文献として引用されることが多い。 しかし、当初理工学社で出版された旧本書を手に入れることは困難だった。 というのは、その理工学社が解散してしまったからである。
新本書の解説をしている新井仁之氏は、自身のブログで旧本書を採り上げ、 「復刊してほしいが理工学社が解散してしまった」という意味のことを述べ、残念がっておられた。
おそらく、ちくま学芸文庫の方が氏のブログを見て、復刊を決意されたのではないかと私は思う。 喜ばしいことだ。
冒頭はそっけない。とはいえ、昔は、少なくとも 1980 年代初頭の数学の教科書はほとんど、 この本と同じようにそっけない感じだった。 今はかえって新鮮に感じる。 そして、関数解析が解析学と線形代数学の両方の先にあるという性質を受けていることからそれぞれのそっけなさが出ている。
1.1. 線形空間 の節だけみると、線形代数の教科書そのものである。 初年級の線形代数の本にないのは、無限次元の線形空間についての定義があることであろう。
1.2 Banach 空間の節は、こんどはまるで解析学の定義が並ぶ。 定義1.6. の冒頭が「線形空間 `X` の各元に実数 `norm(x)` が対応し」 とあるのを除けば、初年級の解析学であろう。 そうして定義があれよあれよと進み、定義1.11. に至って、Banach 空間が定義された。 ここまででわずか 22 ページである。新井氏がいう「一切の虚飾を廃し」ている、との評はよくわかる。
p.022 でBanach 空間のことを B型空間とも呼ぶ
とあるが、今ではこの呼称はほとんど用いられない。
p.056 で Banach アルジブラの定義がある。今、Banach algebra は日本では、バナッハ代数とかバナッハ環というのがほとんどで、 バナッハ多元環、バナッハ線型環などもあるが、アルジブラを訳さずに表記するのは珍しい。ただ、この場合の algebra はいわゆる代数学的構造の 「代数」を表す概念ではないので、これもありかもしれない。
勉強の便宜のために記号表を作った。
p.364 上から 10 行目、 P. Joran となっているが、正しくは P. Jordan である。
このページの数式は MathJax で記述している。
書 名 | 関数解析 |
著 者 | 宮寺 功 |
発行日 | 2018 年 11 月 10 日(第1刷) |
発行所 | 筑摩書房 |
定 価 | 1300 円(本体) |
サイズ | 377ページ |
ISBN | 978-4-480-09889-4 |
その他 |