冨島佑允 :数学独習法

作成日 : 2023-07-17
最終更新日:

概要

「はじめに」から引用する。

(前略)本書は高度な数学を俯瞰的に眺めることで、数学的な思考のエッセンスをアレルギーなしにお伝えします。(後略)

感想

本書は「数学独習法」であるが、独習の方法が説明されていると思ったら大間違いである。むしろ、数学の独習をした結果到達してほしい目標となる内容をまとめたもの、 というべきだろう。なお、本書には数式やグラフがあまりない。いくらブルーバックスでもこれだけ数式を載せないのは詐欺だろう、と思ったら本書はブルーバックスではなくて講談社現代新書なのだった。

は・じ・きの公式

「はじめに」で、微積分学が紹介されている。微積分学が物体の運動を研究するために生み出されたこと、微積分学の発展においてブレークスルーとなったのが「瞬間を考える」という発想法であるとして、 次のような公式が紹介されている。

速さが変化しない場合は、小学校で習う「速さ×時間=距離」の公式が使えます。最初の文字をとって「は・じ・きの公式」と覚えさせられた方も多いでしょう。

私が小学校のとき、「は・じ・きの公式」という名前は全く耳にしなかったから当然覚えていない。本書の著者より私はほぼ 20 歳上だからかもしれないが、やはりこの公式は若い人のものだと思う。 私はこの「は・じ・きの公式」ということばを目にすると、少し嫌な気分になる。嫌、というのは、「はじき」と聞くと拳銃を思い出すからというのが大きいのだが、他にも理由がある。 まず、「は・じ・き」と並べただけでは意味をなさないからだ。正しくは「速さ×時間=距離」だから、×と = の位置まで覚えて初めて意味を成す。いくら順序が正しくとも、 「速さ=時間×距離」と×と=の位置を誤って覚えていると却って害が大きい。さらにいえば、この「は・じ・きの公式」は、公式というよりは定義、ないしは公理である。私にとっての「公式」とは、 ある公理や別の基本的な定理から論理的に導かれる言明(命題)のことをいうものだ。「速さ×時間=距離」という等式は、3 つの物理量を表す関係式にすぎず、公式というのははばかられる。 もっとも、定義と公式の無意識的な、または意識的な混同はよく見られるので、あまりうるさくいうものではないだろう。 まとめると、 私にとっての「は・じ・きの公式」の印象は、「VOW17」の記事の投稿者のコメントそのものである。

数式と図の記述

数式は MathJax で記述している。

書誌情報

書名 数学独習法
著者 冨島佑允
発行日 2021 年 6 月 20 日(第1刷)
発行元 講談社
定価 1000 円(本体)
ISBN 978-4-06-524358-9
その他 講談社現代新書、越谷市立図書館で借りて読む

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MARUYAMA Satosi