浅野啓三:行列と行列式

作成日 : 2022-04-23
最終更新日 :

概要

「序」より引用する。本書は基礎数学講座の一篇として, 高等学校の数学を納めて更に進んで数学を学ぶ人々のために, 行列と行列式の理論を解説したものである.

本書は行列より前に行列式が解説されている。歴史的にも行列式は行列より以前に生まれてきたから、 歴史的順序を重んじたのだろうか。別の古い本もやはり、行列式を先にもってきている。

恐るべし昔の学生

奥付によれば、本書の初版1刷は昭和30年(1955年) 10 月 5 日に発行されている。 本書の第3章は一次変換である。この章の第 1 節は「一次変換」で、一次変換と行列の相似が定義される。 その次の第 2 節は「単因子」である。こんな早い段階で単因子を導入されて、 昔の学生は理解できただろうか。ちなみに固有値の導入はそのあとの第 3 節「行列の標準形」 で導入されているが、これは同じ節にある Jordan の標準形よりさらに後である。 spherical_harmonics 氏の書評、 浅野啓三,線型代数学提要,共立出版(1948)(spherical-harmonics.hatenablog.com) を見ると、同じ著者の「線型代数学提要」も固有値の定義よりも単因子の定義が先にある教科書 である。

昔の漢字

本書は新仮名遣いであるが、ところどころ昔ふうの漢字がある。函数共軛齊次などがそうである。

2 本棒

p.16 で行列が説明されている。

行列は通例つぎのように書き表わす.

`((a_(11), a_(12), cdots, a_(1n)), (a_(21), a_(22), cdots, a_(2n)), (vdots, vdots, ddots, vdots),(a_(m1), a_(m2), cdots, a_(mn)) )`
これをしばしば `(a_(ik)) (i = 1, 2, cdots, m; k = 1, 2, cdots, n) ` と略記する.

これはいい。`(a_(ij)) ` ではなく、`(a_(ik)) ` となっている。 すなわち `j` のかわりに `k` を使っているところが気になるが、 たいしたことではない。ところが、次の段落で驚く。

行列記法における両端の括弧は,配置にまとまりをつけるためのものに過ぎない. 行列式の記法における両端の縦線が函数記号の代用であるのとは意味が違う. 近時はつぎのように 2 本棒を使うことが多い.

`norm({:(a_(11), a_(12), cdots, a_(1n)), (a_(21), a_(22), cdots, a_(2n)), (vdots, vdots, ddots, vdots),(a_(m1), a_(m2), cdots, a_(mn)) :})`

行列の配置にまとまりをつけるためのものは、普通括弧(カッコ)を使う。そのうち、 多数派は丸括弧であり、少数派は角括弧であることは知っていたが、通常ノルムで使われるような 2 重線を使うのは初めて見た。

転位

1.3 節は行列式の基本的性質について述べられている。 本書の p.19 で、奇順列と偶順列について説明されている。これらの順列の定義では、 自然数 `1, 2, cdots, n` の順列 `p_1, p_2, cdots, p_n` についての転位を定義し、 この転位の数が (0 を含む) 偶数であれば偶順列、奇数であれば奇順列と定義している。 今では、転位の数を「転倒数」というのではないか(しかしいろいろな教科書でこの数の呼び方はまちまちだ)。 この定義はかえって今風かもしれない。

数式記述

このページの数式は MathJax で記述している。

書誌情報

書名行列と行列式
著者浅野啓三
発行日昭和 51 年(1977 年)10 月 10 日 初版 48 刷(合本)発行
発行元共立出版
定価定価 1200 円(本体)
サイズA5 版 204 ページ
ISBN
その他基礎数学講座 2 巻、川口市立図書館にて借りて読む

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MARUYAMA Satosi