内田伏一・浦川肇:線形代数通論

2026-01-19

概要

「はじめに」から引用する。

(前略)本書は大学初年級学生諸君のための,線形代数への入門書である.(後略)

本書を充実させた姉妹書として、同著者らによる『線形代数概説』があり、同じ裳華房から出版されている。

正規直交化法については、pp.79-80 にシュミットの正規直交化法として説明されている。ジョルダンの標準形については、pp.73-74 で発展として述べられている。

感想

次元定理

線形代数のいわゆる次元定理は、『§5. 線形写像』の p.36 で次のように説明されている。なお本書では、「次元定理」という用語は出ていない。また引用に当たってはベクトル `v` は太文字のイタリックではなく通常のイタリックで表現している。

定理 5.1 線形写像 `f:RR^m rarr RR^n` について,次の等式

`dim ("Im" f) + dim ("Ker" f) = m`
が成り立つ.

[証明] `dim("Ker" f) = s` とおき,`"Ker" f` の基底を `v_1, v_2, cdots, v_s` とする.合計 `m` 個のベクトルが `RR^m` の基底であるように, `m - s` 個のベクトル `v_(s+1), cdots, v_m` を選ぶ.`f(v_(s+1)), cdots, f(v_m)` が `"Im" f` の基底になることを示せば,等式が証明される.この証明を読者に委ねよう.

問5.2 定理5.1 の証明を完成させよ.

巻末に問5.2 の解答が掲載されているので、本書でこの次元定理の解説は完結している。 なお、行列 `A` の階数を `"rank" A` で表すこと、このとき `dim("Im" f) = "rank" A` が成り立つことも、 p.46 で述べられている.

線形代数の応用

§12 は「線形代数の応用」である。このセクションでは、微分方程式の応用で一節が、またグラフ理論と隣接行列で一節が割かれている。グラフ理論と隣接行列について線形代数の本で取り上げられているのは比較的珍しいと思う。 グラフについての言及では、「スペクトル」の定義まである。(p.97)。

このような話題が取り上げられる理由について考えてみた。 おそらく、著者の一人である浦川氏が「ラプラス作用素とネットワーク」という著書で、新しい観点から微分幾何とネットワークやグラフ理論を対比詳述されているからではないかと邪推する。

§13 は「線形計画法」である。「線形代数の応用」とは別建てで線形計画法まで触れられているのも、類書では珍しいと思う。

行列式

本書で、行列式は置換の符号を用いて定義されている。行列式の計算法として p.48「関孝和・サラスの方法」が紹介されている。通常は単にサラスの方法として紹介されているので、日本の偉大な数学者について言及されているのはすばらしい。 関孝和については、本書 p.64 で詳しく述べられている。なお、せっかくの日本人の業績ではあるが、行列式の計算で「関孝和・サラスの方法」を無理に教えるのはあまり好かない。 行列式の具体的な計算は余因子展開を覚えれば十分だろう。さらにいえば、行列式の定義そのものからして、置換によらずに再帰的に定義するのが初学者には望ましいと考える。

日本人

日本人といえば、p.95 でカオスを世界で最初に発見した日本人である上田睆亮の業績についても触れられている。私は右翼ではないが、こういう記載はうれしい。

問題

本書の巻末に補充問題がある。p.118 の§9 に対応する補充問題のうち、次をやってみよう。

9.5 行列 `A = [[a, b], [c, d]]` に対し,次の等式が成り立つことを示せ.(ケーリー・ハミルトン):

`A^2 - (a + d)A + (ad - bc)I_2 = O`

ごりごりやってみるしかないだろう。

`A^2 = [[a,b],[c,d]][[a,b],[c,d]] = [ [a^2 + bc, ab + bd], [ac + cd, bc + d^2]]`

`(a+d)A = [[a(a+d),b(a+d)],[c(a+d),d(a+d)]]`

`(ad-bc)A = [[ad-bc,0],[0,ad-bc]]`

以上から、与えられた式の左辺を計算する。

`A^2 - (a + d)A + (ad - bc)I_2`

`=[[a^2+bc-a(a+d) + ad-bc, ab+bd -b(a+d)],[ac+cd-c(a+d),bc+d^2-d(a+d) + ad-bc]]`

`=[[a^2+bc-a(a+d) + ad-bc, ab+bd -b(a+d)],[ac+cd-c(a+d),bc+d^2-d(a+d) + ad-bc]]`

`=[[0,0],[0,0]] = O`

よって証明された。

書誌情報

書名線形代数通論
著者内田伏一・浦川肇
発行日1994 年 10 月 20 日(第 1 版)
発行元裳華房
定価1600 円(税別)
サイズ
ISBN4-7853-1085-5
NDC
その他川口市立図書館にて借りて読む