吉田 洋一:ルベグ積分入門

作成日:2016-10-29
最終更新日:

概要

従来のリーマン積分では何が問題だったのか。ルベグ積分では何が解決できるのか。

感想

反例

私にとっては、ルベグ積分(ルベーグ積分、ルベッグ積分)は難物である。 ただ、この本では付録に「反例そのほか」とある。ここでは、一見正しそうな命題であっても、実は反例があるということがらが述べられている。 反例は大切だ。

積分の境地

p.224 に次の記述がある。この「積分の境地」という表現がいい。

`f` が `[a, b]` で微分可能のとき,`f'` が `[a, b]` で微分可能であるとは限らない. したがって, ルベグ積分は導函数がいつでも積分可能であるような積分の境地までは達していないわけである.

測度空間

pp.267-268 で、著者はルベーグ流の積分を定義するための道具立てとして、(1) まず《可測集合族》なるものを定める。 (2) その可測集合族を定義域とする集合関数を与えて,これを《測度》と名付ける。以上の2定義を紹介している。ただし、 (2) の測度では次の2つの条件を満たしていなければならない。(p.254)

  1. `0 le m(A) le +oo, m(O/) = 0`
  2. `A_1, A_2, cdots, A_n, cdots` が交わらない点集合列ならば
    `m(uuu_(n=1)^oo A_n) = sum_(n=1)^oo m (A_n)`

ここで、`A` は可測集合、`m` は測度関数である。

ここからさらにわからなくなる。(つづく)

`RR` とか `RR^2` ,あるいは `RR^n` とかいう空間の点集合でなくとも, 上のような順序をふんでいけば,ほかのいろいろな集合のうえでの《積分》を考えてもよさそうなものだというのである.

フラクトゥール

数学の本では、日本語であってもアルファベットが必ず出てくる。そして必ずといっていいほどギリシア文字も出てくる。 そして、数学の本の半分ほどは、フラクトゥールが出てくる。たとえば本書の p.103 では、可測集合全部から成る集合を `frL` であらわし とか、p.104 では、条件(中略)をみたすようなあらゆる集合族を考え,それらすべての交わりを `frB` で表し, `frB` をボレル(Borel)集合族とよんでなど、多くの個所でフラクトゥールが見られる。 さて、p.141 や p.186 で `frs` のようなぐねぐねした文字が出てくる。これもフラクトゥールで、小文字の s を表す。 なお、ブラウザや MathJax の処理系によるのか定かでないが、ブラウザと本では `frs` の書体が異なる。 ブラウザに出てくる `frs` は右上から始まってグネグネ降りていくが、 本の `frs` はブラウザに表示されている曲線始点の右上をさらに左上上方に延長したような形だ。 参考記事: ドイツ文字(フラクトゥーア)とドイツ語の筆記体 (toxa.cocolog-nifty.com) の図版を参照してほしい。 この図版でのフラクトゥールの小文字の s は、本書での `frs` の字体に近い。

質問と答

2019-10-01、匿名の方からこんな質問があった。ほぼ原文のとおりである

	すいません。同じ本の旧版を読んでいるのですが。
	6 微分法と積分法の§7.有界変動の関数
	以下のような記述ありますか。正誤表を探していたら、
	更新日時が比較的最近のサイトであなたの記事を見つけました。

	F'(x) ≧ fn(x)
	
	n→∞とすると、ほとんど至るところ
	F'(x) ≧ f(x)
	
	よって、
	∫F'(x)dx ≧ ∫ f(x) dx = F(b) (積分範囲[a,b])
	
	ここの最後のF(b)はどうしてかわかりますか。

少し考えてみたので私なりの結論を述べる。まず、記述は、VI. 微分法と積分法 にはあるが、 §7. 有界変動の函数 にはなく、一つ前の§6. 不定積分と微分法 にある。 さて、ここにはどのような記述になっているか。ちくま文庫版の pp.211-212 にかけて引用する。

(前略)よって,結局,ほとんど至るところ,
`F'(x) ge f_n(x)`
であるということになる.
ここで、`n -> +oo` ならしめれば,ほとんどいたるところ
(2) `F'(x) ge f(x)`.
よって,
`int_a^b F'(x)dx ge int_a^b f(x)dx = F(b)`.
しかるに,一方,§5. 1) によれば `int_a^bF'(x)dx le F(b) - F(a) = F(b)` だから, `int_a^b F'(x)dx = int_a^b f(x)dx` .すなわち,
`int_a^b[F'(x) - f(x)]dx = 0`
(後略)

質問者の「ここの最後のF(b)はどうしてかわかりますか。」には、「`F(a)`が 0 だから」と答えればよいだろう。 ではなぜ、`F(a) = 0` なのか。p.209 に証明すべき命題 2) が次のように記載されている。

2) `f` が `[a,b]` で積分可能ならば
`F(x) = int_a^x f(t)dt`
とおくと,`[a, b]` でほとんど至るところ
`F'(x) = f(x)`

`F(x)` の定義式から、`F(a) = int_a^a f(x)df` だが、積分区間が`[a,a]`だから、任意の`f(x)` に対して、 `int_a^a f(x)dx = 0`。よって `F(a) = 0` である。

ルベーグ積分の本

数式記述

数式記述は ASCIIMathML を、 数式表現は MathJax を用いている。

書誌情報

書 名ルベグ積分入門
著 者吉田 洋一
発行日2015 年 8 月 10 日(第 1 刷)
発行元筑摩書房(ちくま学芸文庫)
定 価1300 円(本体)
サイズ
ISBN978-4-480-09685-2

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