経済的発注量の導出:日本応用数理学会誌2009年9月号

作成日:2009-07-04
最終更新日:

経済的発注量とは

日本応用数理学会論文誌に掲載された論文を読んだ。 その中に、多くの条件を取り入れたことを主題とする経済的発注量( EOQ)導出の論文があった。 そこで、経済的発注量とは何か、もう一度思い出すことにした。以下、この章で記すモデルを、 伝統的モデルと呼ぶ。 なお、伝統的モデルの導出は、 中小企業診断士試験計算問題集の項で行なっているので、 必要があれば適宜参照されたい。

なぜ最適化できるか

以上、リンク先は何でもないように書いてきたが、実はここまで長い道のりがある。 まず、在庫分に比例して費用が生じる、という仮定に納得できるか、考えないといけない。 倉庫代が土地だけのことを考えたら上に積めばよいから問題ない、と思ったりもするが、 荷揚げ・荷降ろしの問題もあるし、だいたい個数が増えれば土地も増えるから、 まあ納得できる結論ではある。

次に、発注費用について考えてみよう。発注回数は、1回あたりの発注量と反比例する、 というのに気付くかである。 つまり、年間(厳密に言えば単位時間)に売れる(捌ける)数は所与のものであるということだ。 たとえば、1年間に商品が240個売れるとすると、注文回数と注文数は次の関係になる。

このように発注量と発注回数が反比例関係にあることは重要である。 在庫費用は発注量と比例関係にあることとは対照的である。 それから、1回の発注に要する費用は、発注個数に無関係に定額であることにも注意する。 これは情報の伝達だからである。もし発注費用が個数に比例する、というのであれば (まず実務上では生じないだろうが)そもそも経済的発注量の概念がなくなってしまう。

予約割引と不完全信用取引

さて、論文誌にある論文では上記のモデルの条件を広範囲に適用できるように拡張していることがポイントである。 もちろん、実際には最初にあげた極く基本的かつ制約の多い式から、 多くの学者が制約を取り外したり適用範囲を拡張したりしてより現実に近いモデルまで開発した式がある。 著者らも、さらに自分たちのオリジナリティを出して式を作っている。

そのような条件を考慮したり、適用範囲を拡張したりした過去の論文について、最初で提示されている。

たとえば、伝統的モデルでは、製品受領後正に代金を支払うことになる。 しかし、これは現実的ではない。小売店は、供給者の鎖(サプライチェーン) の一部として次のような処理を行なう。

商流:	顧客←小売店←製造業者
金流: 顧客→小売店→製造業者

小売店は製造業者から掛けで(支払い後で)買う。 これは、信用取引期間内であれば、支払が猶予できるということである。 一方、顧客は小売店に代金を即時で支払う。そこで、 小売店は顧客から受領した代金を金融期間に預けることにより、利息が得られる(受取利息)。 一方で、小売店は期日までに製造業者に返済しなければ、利息が課せされる(支払利息)。 このような条件下でのEOQはいかになるか、研究が進められている。

さらには、信用取引期間の設定を、製造業者と小売店の間だけでなく、 小売店と顧客間にも適用する拡張、 製造業者と小売店の信用取引期間は完全(100%)であるが、 小売店と顧客間の信用取引期間は不完全(部分的な適用)とした場合、 また、小売店の予約割引販売(ASD)を考慮に入れるなど、 多くの応用が考えられる。

論文はこれらの条件をすべて加味するものである。私は読んでいてわからないのでこれを読み進む元気がなかったが、 信用取引期間の完全と不完全の違い、受取利息と支払利息の区別などを明確に定義すると読みやすいと感じた。 後者でいえば、「利息で生じる利益」、「利息で生じる費用」というより「受取利息で生じる利益」、「支払利息で生じる費用」 とすべきというのが一案である。

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