ジョルダン標準形

作成日 : 2018-06-20
最終更新日 :

ジョルダン標準形とは

ジョルダン標準形は、正方行列に関するある種類の標準形のことである。 任意の正方行列をジョルダン標準形に変換することは、 大学の教養課程の線型代数の目標である。 以下、代数的閉体 `K` は複素数体 `CC` とする。

特性方程式

`n` 次正方行列 `A` の固有値を求める。`n` 次ベクトル `bb(x)` に対して、ある `lambda in K` が存在し、次の等式がなりたつとする。
`Abbx = lambda bbx`
この式は次と同値である。
`(A - lambda I) bbx = 0`
ここで、`I` は `n` 次の単位行列である。この式が成り立つためには、カッコ内の行列式が 0 であることが必要十分である。すなわち、
`|A - lambda I| = 0`
この行列式を `lambda` についての特性多項式といい、`varphi_A(lambda)` で表す。また、`lambda` についての方程式
`varphi_A(lambda) = 0`
を `lambda` についての特性方程式という

さて、行列 `A` に対して逆行列をもつ `P` があり、ある「素性のよい」行列 `B` と
`A = P^-1BP`
のような関係にできるとき、`B` を標準形という。「素性のよい」とはどういうことかというと、 たとえば `B^n` が成分ごとに簡単な式で表せるなどの場合である。 たとえば、`B` が対角行列であれば、それは「素性のよい」行列である。

さて、どんな行列 `A` にたいしても素性のよい行列 `B` が見つかるか。たとえば、どんな行列 `A` にたいしても `A=P^-1BP` となる対角行列 `B` はみつかるか。

実は、「素性のよい」行列を対角行列に限るとした場合は、そのような素性のよい行列がみつかるとは限らない。 しかし、素性のよさを対角行列ではなく、別のところに求めれば、みつかる。そのような素性のよい行列を、 ジョルダン標準形とよぶ。ジョルダン標準形はその特別な場合として、対角行列を含む。

例1

まずは2次行列で考えよう。
`A = ((7, 9), (-1, 1))`
とする。特性方程式は次の通りとなる。
`(7-lambda)(1-lambda) + 9 = 0`

これを同値変形していく。

`lambda^2 - 8lambda + 7 + 9 = 0`
`lambda^2 - 8lambda + 16 = 0`
`(lambda - 4)^2 = 0`
よって、`Abbx = lambda bbx` となる `lambda` は存在し、`lambda = 4` である。

で、それと標準形がどのような関係があるか、ということだ。特性方程式に重根がなければ、解を `alpha, beta` として、
`B = ((alpha, 0), (0, beta))`
とすることができる。では、重根 `alpha` だったらどうなるか。この場合、対角化ができる場合とできない場合がある。 対角化ができる場合は重根でない場合と同じように扱える。
`B = ((alpha, 0), (0, alpha))`
対角化ができない場合は次のような標準形がある。
`B = ((alpha, 1),(0, alpha))`
これら3種類の行列がジョルダン標準形と呼ばれるものである。

さて、`A` は対角化できるだろうか。言い換えれば素性のよい行列は次の `B` でよいのだろうか。
`B = ((4, 0),(0, 4))`.
では具体的な `P` を求めてみよう。
`P = ((x, z),(y, w))`
とおく。`A = P^-1BP` より `PA = BP` であるから、
`((x,z),(y,w))((7,9),(-1,1))=((4,0),(0,4))((x,z),(y,w))`
`((7x-z,9x+z),(7y-w,9y+w))=((4x,4z),(4y,4w))`
`x, y, z, w` は一意には決まらないが、上の式は次の式と同値である:
`3y = w, 3x = z ` …… (*)。
この2つの式を満たすような `P` は、たとえば次のようにとれる:
`P = ((1, 3), (1,3))`
ところが、このようにして作られた `P` は逆行列をもたない。なぜかというと、 (*) から必ず `{::}^t(z,w) = 3 {::}^t(x,y)` となってしまうから、 言い換えれば `{::}^t(z,w) と {::}^t(x,y)` が一次従属になってしまうから、 さらに言い換えれば、`A` の行列式がゼロとなるからである。:
`|(x,z),(y,w)| = |(x,3x),(y,3y)| = 0`
したがって、`B` の対角化はできない。

では、もう一つの、対角行列ではない素性のよい行列にすることはできるか、その解答は「はい」である。 すなわち、この`A`では、次の `B` が素性のよい行列となる:
`B = ((4, 1),(0, 4))`.
`P` を求めよう。`A = P^-1BP` より `PA = BP` であるから、`P = ((x, z),(y, w))` として、
`((x,z),(y,w))((7,9),(-1,1))=((4,1),(0,4))((x,z),(y,w))`
`((7x-z,9x+z),(7y-w,9y+w))=((4x+y,4z+w),(4y,4w))`
`x, y, z, w` は一意には決まらないが、上の式は次の式と同値である:
`3y = w, 3x = y + z`。
この2つの式を満たすような `P` は、たとえば次のようにとれる:
`P = ((1,2),(1,3))`
この `P` が実際に `PA = BP` を満たしているか調べる。
`PA = ((1,2),(1,3))((7,9),(-1,1)) = ((7-2,9+2),(7-3,9+3)) = ((5,11),(4,12))`、
`BP = ((4,1),(0,4))((1,2),(1,3)) = ((4+1,8+3),(0+4,0+12)) = ((5, 11), (4, 12))`。
よって、`PA = BP` 。

なお、学生時代に誤解をしていたことがあるのでここで恥ずかしいが記す。 まず、ジョルダン標準形は、対角行列を含むということである。 また、特性方程式に重根がある場合でも、対角化ができる場合がある。 たとえば、`A` が単位行列の定数倍であるような行列がそれに該当する。

例2

例3

一般の場合は、上記から類推できるだろう。記述は省略する。また、証明も省略する。

数式表現

このページの数式は MathJax で記述している。

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