金 重明:やじうま入試数学

作成日 : 2018-03-28
最終更新日:

概要

中学、高校、大学の数学入試から29の問題を集め、解説している。

感想

第25問は「金重明先生のすばらしい解法」という表題が付けられている。問題は次のとおりである。

直角二等辺三角形を、図のように3本の平行な直線㋐、㋑、㋒の上に頂点があるようにおきました。 角Bは直角です。また㋐と㋑の幅は 5 cm 、㋑と㋒の幅は 3cm です。
㋑と辺ACが交わる点をDとすると、BDの長さは何 cm ですか。

この問題は中学校の入試問題である。著者は、持てる武器をフルに活用して解くことにした。といっている。 著者の解法は、三角関数とベクトルを駆使したものであり、同書を見ればわかるがとにかく力づくの解法である。

さて、中学校の入試問題だから、小学生が解けるはずである。どうやって解いたのか、著者は小学生の女の子に尋ねてみた。 女の子が出した結果は正解で、それも著者の `1/10` の時間しかかかっていなかった。 その解法は同書を見てもらおう。著者、金重明先生は最後にこう述懐している。わたしのあの大げさな計算は何だったのだろうか。 まさに鶏を割くに牛刀を用いたわけだ。女の子に気づかれないように、わたしはそっとため息をついた。 ここで表題の意味がわかる。 著者は自身の力づくの解のことを自嘲と皮肉をこめて「すばらしい解法」といっているのである。

では、私はどう考えたか。ひねり出したのは両人の中間程度、つまり中学生レベルの解答である。 まず、`AB = BC = r (cm)` として、`/_ ABD = theta` とする。 B を原点にとり、BD を x 軸上の線分とする。A の座標は `A=(r cos theta, r sin theta)` である。 `/_ABC = pi / 2` であるから C の座標は `C=(r sin theta, - r cos theta)` である。 `A` の `y` 座標と `C` の `y` 座標から次が成り立つ。

` rsin theta = 5, r cos theta= 3`

これらの式を辺々二乗し加えると ` r^2(sin^2 theta + cos^2 theta) = 5^2 + 3^2 `
よって `r^2 = 34 `
これから、三角形 ABC の面積は `1/2 34 cm^2 = 17 cm^2` であることがわかる。

次に BD の長さを求める。これを `x (cm)` とおく。 三角形 ABD の面積と 三角形 BCD の面積の和が三角形 ABC の面積となることから、次の式が成り立つ。

`1/2 x * 5 + 1/2 x * 3 = 17`
` x = 17 / 4 `

ここで、三角形 ABC の面積を求めるために三角関数を使ったが、中学生では三角関数を習わない。 ところが、実は三角関数を使わずとも求められる。 同書で小学生が指摘した通り、B を通り㋑に垂直な線を引く。この垂直線と㋐、㋒の交点をそれぞれ E, F とする。 すると、△AEB と△BFC は合同である(証明は同書を参照のこと)。 以下は中学生レベルの解答である。使うのはピタゴラスの定理だ。この定理から
`AB^2 = AE^2 + EB^2 = BF^2 + EB^2 = 3^2 + 5^2 = 34 (cm^2)`
`AB = sqrt(34) (cm)`
と求められる。`AB` と `BC` は長さが等しく直角だから、三角形 ABC の面積は、
`1/2 * sqrt(34) * sqrt(34) = 17`
と求められる。


索引もどき

この本には索引がないので、 自作の索引作成支援ツールで作った索引もどきを以下に示す。 本来の索引との違いは次の通り。

ここでディオパントス:230 とディオファントス:124 が並んでいるが、両者は同一人物と推測される。
同書 p.230 に出ているディオパントスは、ローマ時代の数学者ヒュパティアと関連して次のように紹介されている。 彼女(=ヒュパティア)は、その教養あふれる注釈によって、アポロニウスとディオパントスの幾何学を解明した。
一方、同書 p.124 に出ているディオファントスは、フェルマーが愛読していた書物「アリスメティカ」の著者として言及されている。 アリスメティカは幾何学の書というよりは代数学の書である。

これだけでは両者が同一人物か否かを判断する手掛かりはないが、アリスメティカの作者のディオファントスは Diophantus ( Διόφαντος ) とつづられること、ディオファントスと表記される数学者について原音はディオパントスと主張している人がいること、 そして仮に異なるとすれば、ディオパントスによる(当時の)幾何学がしられていてよいはずだが今は知られていないこと、 これらのことからおそらく同一人物である可能性が高い。

なお、アポロニウスは、幾何学で有名な「アポロニウスの円」で知られる。

数式と図の記述

数式は MathJax で記述している。 また、図は ASCIIsvg で記述している。

書誌情報

書 名やじうま入試数学
著 者金 重明
発行日2015 年 4 月 20 日(初版)
発行元講談社ブルーバックス
定 価900 円(本体)
NDC410
サイズ18cm 254ページ
ISBN978-4-06-257913-1

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MARUYAMA Satosi