有限増分不等式

作成日:2021-06-10
最終更新日:

概要

有限増分不等式は、有限増分の定理とも呼ばれる。平均値の定理とはどう違うのか。 有用性はどうなのか。

有限増分不等式

森毅の主題による変奏曲(上)」では、 有限増分不等式の重要性が述べられている。同書の p.236 では次のように述べられている:

`abs(f(b) - f(a)) le underset(xi in [a, b])("sup")abs(f'(xi)) abs(b-a)`

上記の式の一般化と証明については同書 p.241 以降解説されているが、 一般化されているので理解に時間がかかりそうだ。時間がかかるのはいいが、わからなかったらどうしよう。 悩んでいる時間があれば理解に時間をかければいいのだが、堪え性がない。インターネットを調べてみると、 鈴木範男先生の「有限増分定理とその周辺」という資料があった。
https://math.cs.kitami-it.ac.jp/~norip/const.pdf
より少し変えて引き写すことで、理解できるのではないかと思った。


`f(x)` が区間 `[a, b]` を含むある開区間で微分可能として

`m le f'(x) le M   (a le x le b)`

とすると、次が成り立つ:
`m(b - a) le f(b) - f(a) le M (b - a)`

ことを証明する。

②の右側の不等式を背理法によって証明する。つまり、

`f(b) − f(a) gt M(b − a)`

と仮定して矛盾を導く。

`a != b` である。なぜなら `a = b` とすると③ は `0 gt 0` となり矛盾するからである。 `a lt b` として一般性を失わない。③ から、適当な実数 `alpha` をとって、

`(f(b) − f(a))/(b - a) gt alpha gt M`

とできる。さて、関数
`F(x) = f(x) − f(a) − alpha(x − a)`

を考える。両辺を微分すると
`F'(x) = f'(x) - alpha`

となる。① と ④ から
`F'(x) = f'(x) - alpha le M - alpha lt 0`

また、
`F(a) = 0`


また④の左側の不等号から
`F(b) = f(b) - f(a) - alpha(b - a) gt 0 `

そこで、`F(x) gt 0` となる `x` の下限
`c = "inf" { x in [a, b] | F(x) gt 0}`


を考える (上の式は、`x in [a, b]` である要素 `x` に対して `f(x) gt 0` が成り立つ `x` の集合を考え、 その集合に対する下限を `c` とおく、という意味)。
下限の定義から、`a le x lt c` で `F(x) le 0` である。 `c != a` であれば `F(x)` の連続性により `x(c) le 0` であり、 また `c = a` であれば `F(c) = F(a) = 0` であるからいずれにせよ
`F(c) le 0`

である。
微分係数の定義から
`lim_(x->c) ((F(x) - F(c))/(x - c) - F'(c) ) = 0`

であるので、任意の正の数 `epsilon` に対して次の不等式を満たすような `d` が取れる:
`abs((F(x) - F(c))/(x - c) - F'(c) ) lt epsilon quad (c lt x lt d)`

これは次の式と同値である。
`F'(c) - epsilon lt (F(x) - F(c))/(x - c) lt F'(c) + epsilon quad (c lt x lt d)`

   ⑤から `F'(c) lt 0` であるから、充分小さな `epsilon` に対して、
`F'(c) + epsilon lt 0`

とすることができる。 この `epsilon` を⑥式の `epsilon` として⑦式の第2の不等式と合わせると、
`(F(x) - F(c))/(x - c) lt F'(c) + epsilon lt 0`
`:. F(x) - F(c) lt 0`
`:. F(x) lt F(c)`
⑥から `F(c) le 0` 。
`:.F(x) lt 0`
これは、`F(x) gt 0` となる `x` の下限として `c` を定義したことと矛盾する。 よって下記が示された:
`f(b)−f(a) le M(b−a)`

`m(b-a) le f(b)−f(a)` を示すことも、上記と同様に背理法で可能と思われる。


有限増分不等式について

さきに挙げた梅田の本の他、 一松信「微分積分学入門第一課」に丁寧な解説がある。

まず、一松の上記の文献では p.35 で次のように述べられている:

 定義域の区間内で,`u le v` ならばつねに `f(u) le f(v)` である関数 `f` を単調増加と呼ぶ. そのときには区間内に `x` を固定したとき,` h gt 0` でも `h lt 0` でも

`(f(x+h) - f(x)) / h ge 0`
(1)

であるから,`f(x)` が微分可能ならば `h -> 0` とした (1) の極限値である `f'(x)` も `ge 0` である.

 では逆に,`f'(x) ge 0` ならば単調増加だろうか?

 まず `f'(x) gt 0` と仮定しよう.このときはどこでも増加しているのだから, 当然 `u lt v` ならば `f(u) lt f(v)` であろう.これが基本的な定理である.

 しかしこの定理を厳密に証明することは容易でない.(後略)

実際、この証明には図版を含め1ページ半を要している。証明の骨子は背理法を使っている。 この基本定理 (同書 p.37) を掲げる。

 区間の各点で `f'(x) gt 0` ならば,`f(x)` は増加である. すなわち区間内の `u lt v` である 2 点に対して `f(u) lt f(v)` である.

この基本定理をもとに次の定理 (p.36) を証明している。等号があることに注意。

 定理 3.2 区間の各点で `f'(x) ge 0` ならば, そのうちの `u le v` である 2 点 `u, v` に対して `f(u) le f(v)` である.

この定理 3.2 から系 1 として有限増分の定理を導いている。以下同書 p.39 から多少字句を加えて引き写す。 なお、本書では証明終わりの記号は塗りつぶしのない四角だが、この HTML では塗りつぶしの四角である。

 系1(有限増分の定理)`alpha , beta` を定数とする. 区間の各点で `alpha le f'(x) le beta` ならば, 区間内の相異なる 2 点 `u, v` に対して

`alpha le (f(v) - f(u)) / (v - u) le beta`
(3)

である.

 証明 `u lt v` としてよい. `g(x) = f(x) - alpha x` は `g'(x) = f'(x) - alpha ge 0` をみたすから, 定理 3.2 により `g(u) le g(v)` であり,これは

`f(v) - f(u) ge alpha(v - u)`

を意味する.正である `v - u` で割れば (3) の左側の不等式を得る. 同様に `h(x) = beta x - f(x), h'(x) = beta - f'(x) gt 0` に対して `h(u) le h(v)` を書き換えれば, (3) の右側の不等式を得る.∎

数式記述

数式は ASCIIMath で記述し、MathJax で表示している。

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MARUYAMA Satosi