有限増分不等式は、有限増分の定理とも呼ばれる。平均値の定理とはどう違うのか。 有用性はどうなのか。
「森毅の主題による変奏曲(上)」では、 有限増分不等式の重要性が述べられている。同書の p.236 では次のように述べられている:
`abs(f(b) - f(a)) le underset(xi in [a, b])("sup")abs(f'(xi)) abs(b-a)`
上記の式の一般化と証明については同書 p.241 以降解説されているが、
一般化されているので理解に時間がかかりそうだ。時間がかかるのはいいが、わからなかったらどうしよう。
悩んでいる時間があれば理解に時間をかければいいのだが、堪え性がない。インターネットを調べてみると、
鈴木範男先生の「有限増分定理とその周辺」という資料があった。
https://math.cs.kitami-it.ac.jp/~norip/const.pdf
より少し変えて引き写すことで、理解できるのではないかと思った。
`f(x)` が区間 `[a, b]` を含むある開区間で微分可能として
②の右側の不等式を背理法によって証明する。つまり、
`a != b` である。なぜなら `a = b` とすると③ は `0 gt 0` となり矛盾するからである。
`a lt b` として一般性を失わない。③ から、適当な実数 `alpha` をとって、
`m(b-a) le f(b)−f(a)` を示すことも、上記と同様に背理法で可能と思われる。
さきに挙げた梅田の本の他、 一松信「微分積分学入門第一課」に丁寧な解説がある。
まず、一松の上記の文献では p.35 で次のように述べられている:
定義域の区間内で,`u le v` ならばつねに `f(u) le f(v)` である関数 `f` を単調増加と呼ぶ. そのときには区間内に `x` を固定したとき,` h gt 0` でも `h lt 0` でも
`(f(x+h) - f(x)) / h ge 0`(1)であるから,`f(x)` が微分可能ならば `h -> 0` とした (1) の極限値である `f'(x)` も `ge 0` である.
では逆に,`f'(x) ge 0` ならば単調増加だろうか?
まず `f'(x) gt 0` と仮定しよう.このときはどこでも増加しているのだから, 当然 `u lt v` ならば `f(u) lt f(v)` であろう.これが基本的な定理である.
しかしこの定理を厳密に証明することは容易でない.(後略)
実際、この証明には図版を含め1ページ半を要している。証明の骨子は背理法を使っている。 この基本定理 (同書 p.37) を掲げる。
区間の各点で `f'(x) gt 0` ならば,`f(x)` は増加である. すなわち区間内の `u lt v` である 2 点に対して `f(u) lt f(v)` である.
この基本定理をもとに次の定理 (p.36) を証明している。等号があることに注意。
定理 3.2 区間の各点で `f'(x) ge 0` ならば, そのうちの `u le v` である 2 点 `u, v` に対して `f(u) le f(v)` である.
この定理 3.2 から系 1 として有限増分の定理を導いている。以下同書 p.39 から多少字句を加えて引き写す。 なお、本書では証明終わりの記号は塗りつぶしのない四角だが、この HTML では塗りつぶしの四角である。
系1(有限増分の定理)`alpha , beta` を定数とする. 区間の各点で `alpha le f'(x) le beta` ならば, 区間内の相異なる 2 点 `u, v` に対して
`alpha le (f(v) - f(u)) / (v - u) le beta`(3)である.
証明 `u lt v` としてよい. `g(x) = f(x) - alpha x` は `g'(x) = f'(x) - alpha ge 0` をみたすから, 定理 3.2 により `g(u) le g(v)` であり,これは
`f(v) - f(u) ge alpha(v - u)`
を意味する.正である `v - u` で割れば (3) の左側の不等式を得る. 同様に `h(x) = beta x - f(x), h'(x) = beta - f'(x) gt 0` に対して `h(u) le h(v)` を書き換えれば, (3) の右側の不等式を得る.∎
数式は ASCIIMath で記述し、MathJax で表示している。