小沢慧一:南海トラフ地震の真実

2026-03-12

概要

「はじめに」から引用する。

(前略)防災行政と表裏一体となって進むことで莫大な予算を得てきた地震学者が、 行政側に言われるがまま科学的事実を伏せ、行政側の主張の根拠になる確率を算出した‐。 南海トラフ地震の確率の決定のされ方は、まさにご都合主義の科学だったと言えよう。 それならば記者として、実態を世に伝える必要があると考えた。

この国に住む全ての人が今の地震学の真実の姿を知って防災に打ち込み、「地震が来るとは思わなかった」と後悔することのないよう、本書をささげたい。

感想

私の家では東京新聞を購読していて、著者の記事はずっと追ってきた。内容が興味深かったというのが第1の理由だが、それに次ぐ理由は私の友人がこの記事の内容にかかわっていたからだ。 当然本書にも登場する。この友人からはいつも年賀状を受け取っている。ある年の賀状には「地震の備えは怠らずに」と添えられていた。散らかったままの部屋が恥ずかしい。

第1章は、『「えこひいき」の 80% 』という表題である。なにが「えこひいき」か、80 % とは何の数字か、ということについては本書を読んでもらいたい。 この章では、まず政府(以下、ここではほぼ行政の意味)の組織・機関について把握しておきたい。 南海トラフ地震の地震予測は、政府の特別機関である地震調査研究推進本部(以下、地震本部)が検討、発表している。この地震本部は地震調査委員会と政策委員会からなる。地震調査委員会の下部組織に長期評価部会があり、 さらにその下部に海溝型分科会がある。この組織階層を図式化したものが p.20 にある。この構造が分かっていると先を読み進むのに都合がいい。

本書でおもしろかったのは、第3章の「地震学側 vs. 行政・防災側」の「情報開示を巡る攻防」の節だった。著者は、ある問題の取材のために、政策委員会の議事録を入手しようとした。 そこで地震本部の事務局を担当する文科省に連絡したが、担当者からは「その会議に関して公開できる議事録はありません」と拒否された。著者が事態を打開したプロセスは本書に書かれているが、 なるほどと感心したのだった。

現在の地震本部

2026-03-12 に地震本部(www.jishin.go.jp) のホームページを見てみた。トピックスの項に、 評価 南海トラフの地震活動の長期評価(第二版一部改訂)について(令和7年9月26日公表)というリンクがある。このリンクの先に 「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版一部改訂)について」という報告書があり、参考資料として「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版一部改訂)のポイント」 と「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版一部改訂)の概要資料」がある。本来ならば「・・・長期評価について」を読むのがよいのだが、私には根気がないので、「・・・ポイント」のみを読んだ。 一読してみて、本書で「えこひいき」として指摘された点が相変わらず残っているが、わずかながらではあるが和らげられてはいる。 地震本部が「えこひいき」を和らげた第二版一部改訂という版を出したのは、本書の出版がきっかけだったのではないかと信じたい。なお、本書の第1刷は2023 年(令和 5 年) 8 月 31 日である。

書誌情報

書名南海トラフ地震の真実
著者小沢慧一
発行日2023年 10 月 23 日(第3刷)
発行元東京新聞
定価1500円(本体)
サイズ
ISBN978-4-8083-1088-2
NDC450:地球科学、地学
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