パキスタン北西部からインド北西部にかけての言語を調査する学者の随筆。
図書館でたまたま目についた、ツァラトゥストラのような題名に引かれて読んでみたら、どうも私と波長が合いそうだ。 だいたい、「現地嫌いなフィールド言語学者」という屈折した紹介がいい。実際、本を読んでみると面白く、一気に読んだ。
私と波長が合う、と思ったのは、次の p.042 の文があったからだ。現場、すなわちフィールドに行くことのメリットを説明した文の一部である。
僕みたいに物臭で、嫌いな言葉の一番が「努力」で、二番目が「ガンバル」だといった者でも、 やむなく集中して言語に取り組むことができる舞台装置の一つといったところである。
なるほど。だいたい、現場とか現地が好きという人は本当にいるのだろうか、と私は思ってしまう。かつての私の上司は、三現主義を唱える人だった。 三現とは現場、現物、現実の三語をまとめて意味することばで、行動規範となるものである。ところがこの上司は、自身の施策を講じるときに、 ヒアリングには同席せずに部下(である私)に押し付けてすべての責任を私に負わせた。そのくせ、成果は独り占めするような、 「半沢直樹」で登場する「大和田常務」であった。
それはともかく、著者は嫌いである現地に行き、現地のことばを調べる。それは、自身がささげた言語研究の真実の姿を知りたいという、学者魂のなせるわざだろう。
p.019 の右から3行目、加算無限集合
とあるが、正しくは《可算無限集合》である。
書名 | 現地嫌いなフィールド言語学者、かく語りき。 |
著者 | 吉岡乾 |
発行日 | 2019年9月1日(第一版第一刷) |
発行元 | 創元社 |
定価 | 1800円(本体) |
ISBN | 978-4-422-39003-1 |
その他 | 草加市立図書館で借りて読む |
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