(本の帯より)正常・異常といった合理的二元論のはびこりがちな現代文明社会にあって、人間の最も本質的な在り方とは何かが、 改めて思い知らされるであろう。
第一章 序論を読んで、次の文に考え込んでしまった。
とにかく、精神病者を治療するよりも、まず異常を生み出すような社会を改革するべきだというような意見は、
あまりにも単純で観念論的である。
そのあとで著者は続ける。社会の体制が変革された場合、だれよりもまずこの変革にとまどい、
内面的に打撃を蒙るのは、恐らくは精神病者ではないのだろうか。
第四章に収められている「メメント・モリ」という論考を読んで、考えることしきりだった。 著者が治療していた若い女性が自殺したという自身の「治療失敗例」を紹介したのち、多くの考察を加えている。 私が要約するとおそらく誤解のもとになるだろうからここでは述べないが、最後の段落から少し引用する。著者は音楽愛好家であり、 ピアノの名手でもあることを付け加えておく。
「生きがい」とはわれわれの生の一瞬一瞬が実り豊かな死を準備する成長の過程たりうることの喜びであり、 最後の力強い和音へ向かってひたすらに凝集して行く和声法の緊張そのものであるだろう。(中略) われわれの生が豊かな死を意味深く準備しうるためには、生の一瞬一瞬が絶対の死によって絶えず担われていなくてはならない。 このことに思いを致せというのが、「メメント・モリ」(死を忘れるな)という警告の真の意味であろう。
書 名 | 分裂病の現象学 |
著 者 | 木村 敏 |
発行日 | 昭和 62 年 7 月 25 日 初版 9 刷 |
発行元 | 弘文堂 |
定 価 | 3200円(本体) |
サイズ | ??版 |
ISBN | 4-335-65010-8 |
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