副題は「神話と音楽をめぐる作曲家の冒険」
著者は「あとがき」で次のように述べている。
(前略)とりわけ日本においては、「交響詩《フィンランディア》の初演はパリ万博で行われた」 「シベリウスは若い頃より年金で悠々自適な生活を送り、お金に何の不自由もなく作曲に専念できた」 「晩年の30年間は創作活動に従事しなかった」などという初歩的な事実誤認がいまだにまかり通っているありさまであるから(後略)私は初歩的な事実誤認をしていたわけだ。
では事実は何か。同書を読んでもらうのがよいが、私の読み取った範囲では次のとおりである。
まず1点目。「交響詩《フィンランディア》の初演はパリ万博で行われた」がなぜ誤りかということであるが、 初演はパリ万博に向かう前のフィンランドでおこなわれた壮行会としての公演、1900 年 7 月 2 日に行われたのが事実だからだ。 ややこしい話をすれば、この《フィンランディア》にはその前身となる劇付随音楽〈フィンランドは目覚める〉があり、 さらにややこしいことに先駆形〈フィンランドは目覚める〉と完成形《フィンランディア》の間の中間稿もある。
次に2点目。「シベリウスは若い頃より年金で悠々自適な生活を送り、お金に何の不自由もなく作曲に専念できた」 がなぜ誤りかということであるが、確かに、1865 年生まれのシベリウスは1897年から10年間の期限付きで(後に終身となる)年金をもらっている。 しかし、その 3000 マルッカという年金の額はそれだけではおろか、 作曲で得た報酬を加えても家族を養うだけの収入には程通い額である、というのが著者の見立てである。
最後の点の「晩年の30年間は創作活動に従事しなかった」が誤認であるゆえんは、交響詩「タピオラ」(作品完成は 1925 年、
初演は 1926 年)以降、1957 年に没するまで新たな作品こそ発表しなかったものの、
交響曲第8番に全力で取り組んでいること(ただし作品は完成せず)、
以前の作品である《レンミンカイネン》の改訂作業を成し遂げていることから、創作意欲の減衰を安易に指摘するのは難しい
という著者の見解がある。
書 名 | シベリウスの交響詩とその時代 |
著 者 | 神部 智 |
発行日 | 2015 年 12 月 31 日(第1刷) |
発行元 | 音楽之友社 |
定 価 | 3600 円(税別) |
サイズ | A5版 |
ISBN | 978-4-276-13055-5 |
その他 | 越谷市図書館(南部図書室)で借りて読む |
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