長井 鞠子 : 伝える極意 |
作成日: 2015-09-13 最終更新日: |
著者が語る伝える極意。
中曽根が総理だった時代である。中曽根は、日本はアメリカの不沈空母となる、ということをアメリカの大統領に言った。 この不沈空母ということばは今でも私の中に残っている。この本を読んでわかったことは、 中曽根が言ったことは「日本を大きな航空母艦にする」ということであり、 これを通訳の村松増美が " unsinkable aircraft carrier " と訳したことによる、ということだった。 村松の考えでは、ただでさえ空母は大きいから、さらに大きいという修飾を加えるのはおかしいこと、 英語で島を船にたとえるときに " unsinkable " (沈まない、不沈の)ということばが慣用語的に使われる例があることから さきの英語および日本語が出てきたのだ。 あっぱれだったのは、この不沈空母は村松の語訳として処理されたことである。そのあたりの詳細は同書を見るとよい。
この話を知って思い出したことがある。どこかの翻訳について書かれた本である。 その本の著者はある会議に同席していた。講演者が英語で " A is increasing exponentially. " と発言した。これを日本語でどう訳すのだろうと気にしていたら、通訳者は " A はうなぎ上りです。" と訳したので感心した。 こんな話だった。
著者は、小沢一郎と通訳者として評価している(もちろん、政治家としてのポリシーやスタンスを著者は考慮に入れていない)。 これは小沢が論理的でわかりやすい話し方をするからだ、ということである。同様に著者は細野豪志を評価しているが、 これも論旨のはっきりした発言をするからという理由である。
また、著者は orator ということばも出している。これは人びとを揺さぶる煽情性に着目した「雄弁家」という意味で、 orator のわかりやすい例として石原慎太郎を挙げている。好き嫌いがはっきりする人と著者はいっているが、なるほどそうであると思う。
長井鞠子さんの名前をどこかで聞いたことがあると思ったら、 NHK の「仕事の流儀 プロフェッショナル」に出ていらした。そういえば、私もこの番組を見た。 印象に残っている挿話として、ある方の述懐があった。「こちら(日本)の人が机をドンドンで叩いて抗議したら、 長井さんはその人が乗り移ったかのように机をドンドンと叩きながら抗議するんですよ。」 同書では、「話者が机をたたいたからといってわたしも机をたたく、ということはしません」 と書いてある。どっちなのだろう。
ただ面白い話を当人がしている。「あのときは長井さんが一肌脱いでくれたおかげで助かりました」といわれたけれど、 遠山の金さんじゃないんですから、 実は議論が白熱して暑くなったので羽織っていたカーディガンを1枚脱いだだけのことだったのに、という話だ。
表題の伝える極意は、最終章に述べられている。要約すれば次の5段階になるという。
それぞれの背景は同書を参照されたい。そのむずかしさに、私は伝えることがますますできなくなってしまう、というのが結論である。
書 名 | 伝える極意 |
著 者 | 長井 鞠子 |
発行日 | 2014 年 2 月 19 日(第1版) |
発行元 | 集英社 |
定 価 | 680 円(税別) |
サイズ | 版 |
ISBN | 978-4-08-720727-9 |
その他 | 南越谷図書館で借りて読む |
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