青山広:再帰的パラドクス

作成日 : 2025-07-23
最終更新日:

概要

「まえがき」から引用する:

(前略)本書では,嘘つきのパラドクスを中心に,Russell のパラドクスなど再帰的パラドクスについて考察している. 嘘つきのパラドクスでは,主なものとして Kripke の解決法,Barwise と Etchemendy の解決法,Martinich の解決法をとり上げている. 筆者としては,現在,Martinich の解決法が最良のものと考えているが,この点については,さらに研究を深めていきたい.(後略)

感想

要再読である。

本書は、論文における人名はすべてローマ字であるので読みづらい。 なじみのある Cantor、Frege、Gödel、Russell あたりなら名前を聞いたことがあるのでついていけるが、Burali-Forti、Grelling、Berry、Kripke、Quine あたりになるとお手上げだ。

私は、章から外れた、巻末にある「各種パラドクスの紹介」から読んだ。その中にある (4) カタログのパラドクス が、あまり知られていないパラドックスかもしれない。以下引用する。

 世の中にはさまざまなカタログが存在するが,ここに,ある特殊なカタログ `C` が存在する.このカタログは,カタログのカタログであり, つまり,さまざまなカタログが記載されているカタログであり,その特徴は次のようなものである:

いかなるカタログ `alpha` についても,`alpha` の中に `alpha` 自身が1つの項目として記載されていないとき,そしてそのときに限って `alpha` は `C` に1項目として記載される.

 通常のカタログ(例えば,家電製品を紹介する商品カタログなど)については,その中に,そのカタログ自身が1つの(商品)項目と記載されることはないと思われるので,`C` の中に記載されることになるであろう. しかし,カタログとしての `C` はどうであろうか。`C` の特徴から,`C` が `C` の中に記載されるということは,`C` が `C` の中に記載されないことと同じこと(同値)になる. 矛盾である.これがカタログのパラドクスである.

まず文を理解しなければならない。*** 記載されていないとき,そしてそのときに限って *** という言い回しがある。これは数学によく見受けられる記述で、 英語の if and only if の訳として使われる。「そしてそのときに限って」(only if) のあるとなしではどう違うか。 only if がない場合を考えよう。ふつう、if A, then B というときには、A の条件が満足されていれば B である、と読み、A の条件が満足されていない、B の条件については不問である。 つまり、B の条件は満たしていても満たしていなくともよい。ところが、only if があると、A の条件が満足されていれば B であり、かつ A の条件が満たされていなければ、 B であってはいけない、と読まなければならない。

さて、ここまで読むと、パラドックスの意味がわかる。`C` ではないカタログはたしかに、自分のカタログ自身を項目として記載することはない。そこで、`C` には載る。 では、`C` そのものはどうか。`C` は、その意図からして、あらゆるカタログを掲載されていないといけない。一方、`C` の掲載基準(必要十分条件)は、 `alpha` の中に `alpha` 自身が1つの項目として掲載されていないことである。`C` も `alpha` であるであるから `C` の中に `C` を記載してはならない。 これは、`C` は(`C` を含む)あらゆるカタログを掲載しなければならない、という意図と矛盾する。これが本書で説明されているパラドックスだろう。

確かにそうだ。ただ、気になるのがカタログの掲載基準(本書では特徴)である。そのときに限ってという文言がこのパラドックスの肝になっていると思う。 仮に、この文言を外したらどうなるだろう。もちろん、通常の(`C` でない)カタログは、`C` に掲載される。`alpha` の中に `alpha` 自身が1つの項目として記載されていないからだ。 では、`alpha` の中に `alpha` 自身が1つの項目として記載されていたらどうか。この場合は、そのときに限ってという規定がないから、 カタログに載るか載らないかは不定である。このときは、`C` は堂々と `C` 自身をカタログの項目として記載できる。ということは、そのときに限ってという文言は、 パラドックスを作り出すためにわざわざ入れた恣意的な例のような気がする。

数式記述

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書誌情報

書名再帰的パラドクス
著者青山広
発行日2000 年 3 月 30 日(初版)
発行元近代文芸社
定価2000 円(本体)
サイズ
ISBN4-7733-6646-X
その他草加市立図書館にて借りて読む

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MARUYAMA Satosi